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2021/06/23

■湯島サロン「トランスヒューマニズム-意識とはなにか」報告

前回のトランスヒューマン(超人間)を目指した先端技術の動向の話に加えて、今回は「意識に関する最新の仮説」を紹介してもらい、それも踏まえて、トランスヒューマニズムの技術動向をどう受け止めるかが今回の課題でした。

話し合いに入る前に、山森さんはなぜ「意識なのか」について話してくれました。

トランスヒューマニズムの課題を深く考察するには、まずは人間とは何なのか。特に、我々の道徳判断、道徳認知や理性、差別の気持ち(感情)や欲望などはどこから生まれるのか。人間は賢明で崇高な意識をもった優れた存在に進化できるのか。突き詰めれば「意識とはなにか?」を可能な限り科学的な根拠を基に振り返って見る必要がある。

そして続けてこう話されました。

人間は長い間、戦争などお互いに殺し合い、精神的に進化していないが、意識について科学的な研究を進めることによって、人間が高邁な精神活動を持つ存在へと進化することの可能性を肯定したい。

人間の意識を高めることができれば、トランスヒューマニズム分野の先端技術の成果は人間にとって好ましいものとなるだろう。逆に言えば、人間の意識がいまのままだったら危険であると山森さんは警告しているわけです。

そこで山森さんは、デイヴィド・チャーマーズ(哲学者)によって提起された意識の「ハードプロブレム」論からはじまり、ジュリオ・トノーニ(精神神経科医)の意識の統合情報理論、ロジャー・ペンローズ(数理物理学者)やスチュアート・ハメロフ(麻酔科医)の量子脳仮説などの仮説を紹介してくれました。
山森さんは、量子脳仮説が魅力的だと考えているようです。たしかにこの仮説であれば、汎神論にも死の超越にも論を広げやすいような気がします。

こうした仮説や知見に基づいて、すでに脳や意識を管理する技術も急速に進んでいます。それに関しては前回の山森サロンでいろいろと紹介がありました。
意識についてもいずれ解明され、コンピュータへの転送も可能になると山森さんは考えていますが、具体的な実装化は50年以上かかるだろうと言います。

そして、こう呼びかけます。

人類はおのれの運命を決するためのツールを発見しつつあるのかもしれないが、我々が何者になるかは我々次第である。技術が実用化される前に、このような科学技術を社会のなかでどう使いこなすか。脳科学などの知見や技術等を有効に、かつ正しく活用し、人類の暴走を制御していくシステムを作り上げ、人類の道徳観などを高めることが必要と思うが、そのためにはまず、市民である私たちがそうしたことを知ることから始めなければいけない。

山森さんの呼びかけを受けて、話し合いがはじまりました。
まさに見えてくるのはサイボーグ009やブレードランナー、あるいはマトリックスの世界です。そんな話から始まりましたが、私にはやはり大きな違和感がありました。
「意識」さえ科学技術の対象となり管理されるのであれば、そこでの「倫理」あるいは「高邁な意識」とは何なのか。まさに「ハードプロブレム」なのではないか。
山森さんが指摘したように、もし「人間とは何か」が問題であれば、人間と意識の関係とは何なのか。生命につながる科学技術の根底には、「死を乗り越える」という目標があるように感ずるが、「死」とは人間にとって何なのか。そんなことを強く感じました。

ちなみに私にとって、人間(生命)の最大の特徴は「死」だと考えています。
死があればこそ、生があり、生命がある。科学技術がもしそれを否定するのであれば、その行く末は生命(人間)の否定ということになる。
前回と今回の話を聞いていて、私が強く感じたのは「優生思想」でした。
そのせいか、前回も今回も何となく気が滅入ってしまっていました。
でも人によっては、生命科学技術は希望の光なのでしょう。
そこをこそ議論したかったのですが、これは「そもそも科学技術とは何か」にもつながり、なかなか難しい。

今回、いま日本で進められているムーンショット計画を知って、衝撃的だったという2人の女性が参加していました。
その計画の目標の一つは、「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」とあります。これを読んでどう感ずるでしょうか。
一読すると素晴らしい世界をイメージしますが、よく考えてみると人間が人間でなくなるような気もしてきます。

このテーマはさすがに1回や2回では消化できません。
参加者から、結局、「意識とは何だろう」という疑問が解けなかったという声もありました。
そこで、今回のアフターサロンとして、「ムーンショット計画をどう受け止めるか」と「意識と自分」の2つのテーマのサロンを企画したいと思います。

ひきつづき関心を持ち続けていきたいと思います。

Yamamori41

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