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2021/06/23

■第15回万葉集サロン「贈答・問答歌が拓く〈意識〉- 男と女の〈わ〉と〈な〉の共生と分有」報告

15回の万葉集サロンは、男女の贈答・問答歌の応酬を読みました。
テーマは「男と女の〈わ〉と〈な〉の共生と分有」。

最初に、升田さんは古事記の冒頭に出てくるイザナキとイザナミの国生みの話をあげながら、鸚鵡返しの反復法と言葉の秩序から生まれる呪法について話してくれました。
言葉の繰り返しの受け答えは、意識をシェアして人の間に「関係」を生み出します。
「こんにちわ」と声をかけられたら「こんにちは」と対応する。そうした無意識の反復対話の効用はとても大きく、社会の起点かもしれません。

しかし、国生み神話が示しているように、言葉の秩序(例えば発言の順序)を間違うと呪法は発効しない。言葉が人間をしばっていたのです。
しかも、反復対話で使われる言葉には、大きな意味を含意した「記憶言語」が多く、それが他者との関係を生み出す基盤になっている。贈答・問答歌は、そうした基盤の上で他者(多者)との「意識」の分有を広げ、そこから自らの「意識」が生みだし、個の誕生へとつながっていったというのです。
これは私の解釈なので、不正確かもしれません。いささか自信がありません。

対話する歌が多いのが万葉集の特徴だそうです。
記憶言語のやりとりの中から自分の言葉を育てていき、次第に意識や感情が他者にも自分にも見えるようになってきた。そう考えると、なぜみんなが(歌人でもないのに)あれほど歌を歌い、問答し合ったのか、そしてそれを公開していたのかが、納得できるような気がします。

今回は私にはうまく消化できなかったので、間違った報告になりかねないので、升田さんが案内文で書いてくれた解説を再掲します。
これを読むとサロンでの話の大筋がわかると思います。

「歌垣」に源流が求められている万葉の問答歌は、歌垣の場(神の場)における男女の「掛け合い」、「歌闘い」の領域を超えている。同語反覆による応酬の繰り返しは対話性を生み、「意識」として吐露される。本来呪詞であった序詞や枕詞 ー「た」の大いなる言語の仕組みを持つ歌は、それを助けた。
互の「歌」「言」に追随しながらも反駁し、しかも対立ではなく「分有」するところに、相互の意識が顕在化してくる。男と女の自己意識は言語上の「好き」か「嫌いか」ではなく、「歌」「言」を等価に分有することによって負けを知らない生き生きとした活気に溢れている。

当日は、このような背景を説明しながら、久米禅師と石川郎女、湯原王と娘子、佐伯宿禰赤麿と娘子の応酬歌など、いろいろな歌を読んでくれました。

キーワードのひとつは、心を「引く」で、梓弓や信濃の真弓なども話題になりました。
このあたりは歌と一緒に紹介しないと伝わらないでしょうが、そうなると私の乏しい感性では無理なので、言及は避けます。
言葉に関する興味ある話もたくさんありましたが、それも省略。
引き込んだ心を、どこに向かって射るのか、そもそも当時の恋とか愛というのはどんなものだったのか、というような下世話な話も、いつか取り上げてもらいたいと思いますが、今回はそこまで行きませんでした。まあちょっと類した話はありましたが。

万葉集とは関係ないかもしれませんが、升田さんは、たしか「意識の分有によって、最初の頃は憎み合うことはあまりなかった」と話してくれました。聞き違いかもしれませんが、これは「我」と「汝」の関係を考える上でもとても示唆に富んでいるように思います。しかし、意識が育つにつれて、そうした感情や心も生まれてくる。
「意識」「思い」「心」。
万葉集には、そうしたことが人に育っていく様子を読み取るヒントがたくさんあるようです。「意識」とは何かを考える上で、とても示唆に富む話です。
なんだかまた大きな課題を投げかけられた様な気がします。

万葉集サロンの報告なのに、いつも歌が出てこなくてすいません。
しかし万葉集から見えてくることは山のようにあるようです。
私はどうもそちらに関心が向いてしまいます。
「歌」に関する報告は難しいので、歌をきちんと読みたい方は是非サロンにご参加ください。

Manyoushu15

 

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