« ■節子への挽歌5087:久しぶりの早朝の畑 | トップページ | ■節子への挽歌5088:猛暑が続きそうです »

2021/07/19

■湯島サロン「農福連携とソーシャルキャピタル」報告

「農福連携」と「ソーシャルキャピタル」という、これからの社会を考える上での2つの重要な「思想」をテーマにした川辺さんのサロンは、とても議論しきれないほどのたくさんの示唆を与えてくれたサロンになりました。
久しぶりに、泊まり込みの合宿議論をしたくなったほどでしたが、いざ報告を書こうと思ったら、これが実に難しい。難航しました。

「農福連携」は、これまで別々に取り組まれてきた「農業」と「福祉」をつなげるところに新しい価値を創発させていこうという、近代西欧の還元主義的な発想を超える試みであり、また、「ソーシャルキャピタル」は軽量可能な物質的次元を超えて「人と人との信頼」を基軸に社会を捉えていこうという試みです。
いずれも袋小路に陥りつつある時代の流れを大きくブレイクスルーする発想です。
しかし実際にそこから新しい道を導き出すのは難しく、私自身はいまの農福連携やソーシャルキャピタルへの試みにはいささか失望しているのが正直なところでした。
しかし、今回、川辺さんの話を聞いて、少しまた意識が変わりました。

川辺さんは、最近まとめた農福連携マッチン実践のための参考書「ノウフク・マッチング・ハンドブック」を材料に、具体的な事例を紹介しながら、理念や理論を話してくれましたので、農福連携の実践が私の予想以上に広がっていることと同時に、先進的な事例の状況も知りました。私は自分で直接に現地を見ないとなかなか実感できないのですが、川辺さんはしっかりと現地調査をしているので、疑い深い私にもとてもわかりやすく、川辺さんたちが目指す「農福連携」が目指す社会のイメージとそこに向かう取り組み方も伝わってきました。

川辺さんは最初に「農福連携」を「障害者等が農業分野での活躍を実現しながら、地域全体で豊かな社会を実現しようとする取り組み」と説明し、そこから話を始めました。現実からのスタートです。当然ながら、視点や考え方は農業と福祉では違います。私も以前、実際に農福連携研究会をやっていて強く感じたことです。その違いは、そう簡単に折り合いをつけられないことも友人の実践を見ていて感じていました。それをつなげる第3の理念が必要なのです。

川辺さんはつづいて、農福連携を成功させる3つのポイントして、「相互の理解」「ネットワークとコミュニケーション」「社会的理念」を話してくれました。以前、宮田さんがやってくれたサロンで話されたことがとてもわかりやすく整理されていました。
非常に現実的なところからスタートし、目指すのは「社会的理念」、言い換えればソーシャルキャピタルの蓄積という大きなビジョンが根底にあります。ちなみに川辺さんは、今回は言及されませんでしたが、ソーシャルキャピタルに関する論考もいくつか書いています。

今回川辺さんが話してくれた内容は、川辺さんが主宰する農都共生総合研究所が3月にまとめた「ノウフク・マッチング・ハンドブック」に詳しく報告されていますが、同報告書は下記サイトで公開されていますので、関心のある方は是非お読みください。
20近い実践例がわかりやすく紹介されていて、それを読むだけで「農業の持つ力」や「福祉の本質」、そして「なぜソーシャルキャピタルなのか」を実感できると思います。
noufuku_matching_handbook-4.pdf (maff.go.jp)

話し合いは横道にそれながらも、さまざまな議論が飛び交いました。
書きだすときりがないので、私が強く思い、川辺さんにお願いしたことだけを書かせてもらいます。

農福連携によって改めて農業とは何か福祉とは何かが問い直され、そこから社会を再構築していくヒントが得られるとしたら、農福連携とは入り口であって、その先に何を生み出すかが大切ではないか。そろそろそこに視点を置いて農福連携の視野を、たとえば「教育」や「経済」にまで広げていくことが考えられるべきではないか。
つまり「連携」に留まるのではなく、そろそろ「農福共創」へと進むべきでないかということです。
川辺さんたちはそれをたぶん「ソーシャルキャピタル」や「地域共生社会」という言葉で表現しているのだろうと思いますが、そこから思考のベクトルを逆転させるということです。

そして、これは川辺さんにお願いしたことですが、調査分析しているたくさんの事例を単に事例紹介ではなく、そこに共通する普遍性を抽出し、そこから「新しい経済」「新しい社会」のパラダイムモデルを構築してほしいということです。
そこから「成長」に関しても新しいモデルが見えてくるのではないか。SDGsも話題になりましたが、せっかくのSDGsもそこに含まれる「成長(D)」発想がこれまでと同じ内容であれば、弥縫策になったり逆に環境収奪の具にされかねない。

川辺さんの話の中に「農業の工業化」という言葉が出てきたことに関して、むしろ「工業の農業化」こそが必要ではないかという話もさせてもらいました。
これは私が会社時代から実践してきた考えですが、こうした発想の逆転こそが「農福連携」に込められた大きな意味ではないかと私は思っています。

何やら川辺さんのサロンに便乗して勝手な私見を書いてしまいましたが、こうしたことを改めて考えさせてもらえた、私には実に刺激的なサロンでした。

川辺さんと一緒に、主に福祉の視点から同報告書をまとめた友末さんも参加してくださいました。この報告書は単に農業や福祉の報告書ではありません。ぜひ多くの人に読んでほしいと思っています。
いつかこの報告書をじっくり読んだ人を対象に、またサロンをやってみたいです。

Kawabe20210711

|

« ■節子への挽歌5087:久しぶりの早朝の畑 | トップページ | ■節子への挽歌5088:猛暑が続きそうです »

サロン報告」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ■節子への挽歌5087:久しぶりの早朝の畑 | トップページ | ■節子への挽歌5088:猛暑が続きそうです »