■「新しい資本主義」と「新しい民主主義」
最近、少し気になっている言葉に、「新しい資本主義」と「新しい民主主義」があります。
「新しい資本主義」はいうまでもなく、岸田政権が言い出している言葉です。
どういう「新しさ」が出てくるのか期待していましたが、いまのところは完全に肩すかしです。
私自身は、資本主義は「金銭が主役で人間を道具(手段)にする考え」と捉えていますので、そもそも「新しい資本主義」という概念には懐疑的ですが、ソーシャル・キャピタルとか社会共通資本という考えもありますので、人間を手段にしないような資本主義がないとも言えません。
一方、「新しい民主主義」は、昨年、先崎彰容さんの「国家の尊厳」という本で出会った言葉です。先崎さんからは以前、ナショナリズムに関しての新しい示唆をもらったことがあるので、関心を持ったのですが、残念ながら「新しい民主主義政治」のことであって、「新しい民主主義」ではありませんでした。世代が違うと「民主主義」の捉え方が違うのかもしれません。私自身はあまりにもみんな「民主主義」と「民主主義政治」を混同しているのが気になっています。
昨日、地元のあるイベントがコロナで中止になりました。朝からまる1日、その実行委員の一人として作業する予定だったのですが、それがなくなり時間ができたので、久しぶりに、「文部省著作教科書 民主主義」を読み直しました。
1948年から1953年にかけて、教科書として使われたものが、25年ほど前に復刊されたのです。
中学生向きの副読本もありますが、それとは違い、こちらは「民主主義の本質」から始まって、上下巻のかなりの大部のものです。私自身はこれで学んだ記憶はありませんが、ここに書かれている内容はしっかりと学校で学んだように思います。まだその教えが残っていたのです。
しかし、私よりも若い世代は、どうもここに書かれているようなことを学んでいないのではないかといつも思います。湯島のサロンで、時々、民主主義のテーマを取り上げますが、なかなか伝わらないからです。
改めて読むと、とてもわかりやすく、読みやすい。ぜひ多くの人に読んでほしいと思います。たしか、文庫化もされているはずです。
最初の部分だけを引用させてもらいます。ここだけでもぜひ読んでいただき、戦後の日本人たちが「民主主義」をどう受け止めようとしていたかを知ってほしいと思います。
多くの人々は、民主主義とは単なる政治上の制度だと考えている。民主主義とは民主政治のことであり、それ以外の何ものでもないと思っている。しかし、政治の面からだけ見ていたのでは、民主主義をほんとうに理解することはできない。政治上の制度としての民主主義ももとよりたいせつであるが、それよりももっとたいせつなのは、民主主義の精神をつかむことである。なぜならば、民主主義の根本は、精神的な態度にほかならないからである。それでは、民主主義の根本精神はなんであろうか、それは、つまり、人間の尊重ということにほかならない。
民主主義は、決して個人を無視したり、軽んじたりしない。それは、個人の価値と尊厳とに対 する深い尊敬をその根本としている。(中略)民主主義は、国民を個人として尊重する。
昨今は、世界的にも「民主主義」はあまり共感されていないようですが、いま求められているのは、「新しい民主主義」ではなく、民主主義への理解を深めることではないかと思っています。
「個人の尊厳」を起点に発想すれば、もしかしたら「新しい資本主義」も見えてくるかもしれません。
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