■湯島サロン「二分心から個人の時代そして世界の再魔術化へ」報告
近藤さんによる「二分心の時代から現代そして世界の再魔術化へ」のサロンは、「二分心」への関心もあってか、10人を超える参加がありました。
近藤さんの「精神(意識)発達史」という壮大なお話を短くまとめるのは難しいので、ここでは、「二分心仮説」を中心に紹介させてもらいます。これはたぶんこれからも湯島サロンでは、話題になる言葉だと思います。
「二分心(にぶんしん)」とは、簡単に言えば、アメリカの心理学者ジュリアン・ジェインズが半世紀以上前に提出した人間の心に関する仮説です。簡単に言えば、人間は左脳と右脳という2つの脳に応じて、2つの心を持っているという仮説です。
これだけ聞くとなかなかわかりにくいかもしれませんが、たとえば、私たちは、「生かされている自分」と「生きている私」の2つの自分を生きていると言ったらどうでしょうか。「生きている私」は、「生かされている自分」のほんの小さな一部でしかないと、私はいつも実感しています。
また、思ってもみなかった事故に出会って、とっさに身体が動く自分を体験したことは誰にもあるでしょう。あるいは何かに夢中になっている時には、我を忘れて何かの自分を任せている。そういうときの自分は、意識して動いている自分とは違う存在です。
こう考えると、2つの心を持っているということも何となくわかるのではないかと思います。
ジェインズによれば、意識が生まれる以前の人間は、神々の声によって言動していたが、次第に右脳と左脳が別々に機能しだし、左脳が言語を生み出し、意識を生み出してきたと言うのです。
ジェインズは3000年以上前に成立した古代ギリシアの叙事詩『イーリアス』に登場する人たちには意識というものがなく、神の声に従って言動しているというのです。
この仮説を支持する考古学的資料や心理学的知見が増えていますが、それよりもこの仮説を使うことで、さまざまな社会事象や問題の説明がしやすいということもあって、21世紀にはいり日本でも広まってきています。
二分心仮説では、当初は右脳が中心で、そこに「神」の声が降りてきて、それが身体を動かしていたと考えるわけですが、そこから行動が起こり、歌が生まれ、さらに今から3000年ほど前に、文字を伴う言葉が生まれてきたといいます。
ちなみに漢字でも楔形文字でも、「心」という意味の文字が生まれたのはいずれも3000年ほど前だとされています。
ジェインズも、3000年より前の人間たちには心がなかったんじゃないかと書いています。そう思って『イーリアス』を読むととても納得できます。そこにあるのは、神々の声に支配された、現代人のものとはまったく違う人間社会です。これは初期万葉の時代にも言えることかもしれません。
左脳は言語をつかさどり、右脳は感情をつかさどるというように、脳は左右で役割分担していると言われていますが、2つの脳はつながっていて、通常は左右一緒になって脳全体で働いています。しかし事故などにより、一方が損傷を受けたり、つながりが切断されたりしてしまうとさまざまなことが起こることが確かめられています。
こうしたことも二分心仮説で考えると説明もつきますし、対処策も見えてくるかもしれません。精神障害の問題を考えるヒントも得られるかもしれません。
長い説明になってしまいましたが、近藤さんは、こうした二分心の話から始め、紀元前1000年ころに何か大事件が起こり、人間が左脳主軸から右脳主軸へとうつりだし、個人意識(心)が生まれ、そこから人類の文明文化が急激に発展しだしと説明してくれました。そして、いまやたった一人の個人的決断が全人類および地球を共有する多くの生き物たちが一気に絶滅することさえ実現可能になった、と言います。
そして最後に、その流れを変えるために、「世界の再魔術化」という道を示唆してくれました。
話し合いもさまざまな方向に展開しましたが、二分心仮説につなげて言えば、今回の参加者の多くは、やはり左脳派が多く、神の声に関する話題はあまり出ませんでした。
湯島のサロンの参加者の中には、いまだに右脳で神の声を聴いている人が少なからずいますので、いつか今度はそういう人たちに話をしてもらうサロンを企画したいと思います。どなたか話してくれる方がいたら、ご連絡ください。
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