■玉野井芳郎さんをご存知でしょうか
先日、新しい経済に関心を持っている2人の若者に会いました。
会うきっかけになったのは、私が大学で学んだ経済学の教授のおかげです。
玉野井芳郎さんがその人ですが、私が受講していた時はまだ玉野井さんは、教授になったばかりで、経済学史中心の講義だったため、私には退屈でした。以来、経済学への関心を失い、大学時代には経済学関係の授業は全く受けませんでした。
しかし、玉野井さんの話し方や動き方はなぜかとても印象的で、人間としては、記憶に残っている先生の一人です。
私が経済学に興味を持ち始めたのは会社に入ってからです。
1970年代には経済が大きく変わりだそうとしているのが、私にもわかりました。
それが結局は、私が会社を辞める遠因になっているのですが、当時、私が関心を持っていた本を読んでいて、そこに意外にも玉野井さんの名前を見つけました。
学陽書房の「いのちと農の論理」あるいは「地域主義」です。
当時、私が関心を持っていたテーマで、玉野井さんとは関係なく読んだ本です。。
いずれも玉野井さんは編者のひとりでしたが、学生時代の印象が強く、玉野井さんよりもほかの編者に興味を感じ、影響を受けていました。
ところが玉野井さんが亡くなった後、1990年になって、玉野井芳郎著作集全4巻が学陽書房から出版されました。その頃は、私は経済や企業に大きく失望し、せめて自分だけは納得できる生き方をしようと会社を辞めてしまっていました。
ただし逃げたわけではなく、ささやかながら企業の変革にはしばらく関わっていました。
玉野井さんの著作集を読んで、地域主義やエントロピーや農業経済への玉野井さんの思いと実践を知りましたが、それに気づくのがいささか遅かったのは、大学での授業のせいかもしれません。残念なことをしてしまいました。
玉野井さんの全集を契機に、日本の経済の方向が変わるかと期待しましたが、そういう方向への経済の動きは見当たらず、ますますマネタリー・エコノミーやエコノミカル・ポリティクスへと日本の社会は変わりだしました。1980年代に広がりだした再生エネルギーへの動きも、原発中心へと変わってしまいました。
「失われた30年」とよく言われますが、私は「逆戻りした30年」だと思っています。
時代の反転の中で、玉野井さんの経済学も、その後またあまり話題にならなくなりました。宇沢さんの社会的共通資本論にも期待してむさぼるように読みましたが、同じように思ったほどの動きにはなりませんでした。
金融中心のマネタリー・エコノミーはますます加速され、もう行き着くところまで来てしまったような気もします。
しかし最近、あきらめることはないという動きに出会い始めました。
冒頭の2人の若者や、今月初めに湯島でサロンをしてもらった農に取り組んでいる若者は、どうも私が生きている世界とはかなり違う世界を見ているようです。
それに最近、日本でも翻訳が出版されたネグリとハートの「アセンブリ」(岩波書店)によれば、マルチチュードによる新しい政治や経済の時代への条件が生まれだしていると言います。すべては両刃の剣なのです。
そんなこともあって、もういいかと思っていましたが、もう少し現世で生きてみようと思いだしています。
ちなみに、9月11日には、玉野井さんの生命系の経済を修論でまとめた岸本さんに、湯島でサロンをやってもらう予定です。
ぜひ多くの人に参加してほしいと思っています。
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