■「かんたん」とはどういうことですか
使っていたスマホの具合がよくありません。
まあ基本的にスマホは使っていないに等しいので、不都合はないのですが、娘に言われて先日、買い替えました。
その仕組みにいささか疑問を感じましたが、それはそれとして、スマホに関して「かんたんモード」がいいですかと訊かれました。
それで「かんたんってどういう意味ですか?」と質問しました。
一緒に付き添ってくれていた娘も、あきれたようで、あとで、「お父さんも偏屈になってきたね」と言われてしまいました。
しかし、「かんたん」と言われても何のことかわかりません。
画面の文字が大きくなるとか機能がシンプルになるとか、そんなことと簡単とは関係ないと思うのです。
「かんたん」とは、余計な判断をしなくとも私の思いが実現していくことだと思うのですが、私の思いとは私固有の思いですから、私にとっての「かんたん」と他者にとっての「かんたん」は全く違うはずです。
もう30年以上前ですが、ある論考で、21世紀の技術思想の一つとして、「デディケーテッド・テクノロジ」という言葉を作ってみました。その時に同じく使った「ナノテクノロジー」はいま普通用語になっていますが、「デディケーテッド・テクノロジ」はまったく使われることはありませんでした。
「デディケーテッド・テクノロジ」に込めた思いは、「かんたん」です。つまり、使い手に取って使いやすいような個人使用の技術、使い手視点の技術という意味です。
作り手が勝手に、これはあなたにとって「かんたん」ですよというのは、傲慢な押し付けでしかありません。そういう発想が、人間を技術に合わせる社会を育ててきてしまっています。技術に合わせて生きることを潔しと思わない私には、とても不快なことなのです。
だからむっとして質問したのですが、娘はそれを知って「偏屈」だと注意したのです。
もっともその時のお店の若者は、そんな私の意図などは気にせずに、非常に素直に受け止めてくれました。最近の若者たちは、実に素直に技術社会を生きているのです。
その姿勢がとてもよかったので、とても気にいって、その後はすべて彼に任せました。
しかし、その結果ですが、新しいスマホには使いにくさがいろいろあります。どうやったら問題が解決するか、お店に訊きに行ったのですが(購入時の人は不在でした)、原因がわからず、電話で問い合わせるように言われて電話しましたが、問題は解決しません。
あの若者がいるときにまた聞きに行かなければいけません。
困ったものです。
機能が増えればだれにとっても操作が簡単になる方向(ユニバーサルデザイン)で考えるべきですが、いまの技術者や商品開発者にはそういう発想はなく、あまりにプロダクトアウトなのにあきれます。経営の基本はまったくわかっていないと思いますが、「顧客を創る」というドラッカー経営の基本には合っているでしょう。日本企業が落ちこぼれていく理由がわかるような気がします。
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