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2022/11/18

■『働きがいのある会社とは何か 「働きがい理論」の発見』をお勧めします

久しぶりに企業経営に関わる本を読みました。
ロバート・レベリングの『働きがいのある会社とは何か 「働きがい理論」の発見』(晃洋書房)です。アメリカで出版されたのはかなり前ですが、ようやく日本でも翻訳出版されたのです。

ロバート・レベリングといえば、「働きがいのある会社」という視点からGPTWGreat Place to Work)モデルという「働きがい理論」に基づく企業評価を始めた人です。
企業評価のプログラムはいろいろとありますが、GPTWモデルの特徴は、働く人の視点に立っていることです。これは他の評価スキーム(ほとんどが経営者の視点での評価)と思想を異にしています。そしてそれを裏付けている経営思想も企業観もこれまでのものとは全く違うのです。

この調査を日本に紹介したのは、当時日本能率協会にいた斎藤智文さん(淑徳大学教授)ですが、斎藤さんは「働きがいのある会社‐日本におけるベスト25」など、それに基づく何冊かの本を執筆しています。
http://cws.c.ooco.jp/books.htm#080831
http://cws.c.ooco.jp/books.htm#100509

私は10年ほど前までは、話題になった経営書にはほとんど目を通し、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューも毎月読んでいました。企業のあり方が社会の方向性を決めていくと考えていたからです。
しかし、21世紀に入って、企業経営論があまりに目先の利益主義・効率主義に覆われてしまい、私の経営論とは真逆なものになってしまいました。ささやかながら、そうした流れに抗っていましたが、最近は力尽きてしまっていました。

そんな時に、斎藤さんたちがまた、この本を翻訳出版し送ってきてくれました。久しぶりに読ませてもらいました。改めて従業員視点に立った「働きがい理論」を読んで、久しく興味を失っていた企業経営への関心が戻ってきました。

GPTWモデルの経営思想は、一言で言えば、従来の経営思想と違い、人の視点に立って経営を考えていることです。
GPTWモデルの基礎になっているのは、実際に企業で働いている現場の人へのインタビューです。そこで働いている人が、生き生きとしてくれば、結果として企業も生き生きして業績も上がっていくというのが、GPTWモデルの経営思想です。

従来の経営書のほとんどは組織の視点で経営を考えています。
たとえば、ドラッカーの経営思想は、企業の主要な目的を「顧客を創造すること」とし、そして企業を効果的に経営する能力のあるプロフェッショナルなマネージャーを創り出すことに視点が置かれていました。いささか極端に言えば、従業員は「人材」という経営資源(要素)の一つでしかないのです。さらに言えば、外の人たちは「消費者(顧客)」として、これもまた経営の手段に位置づけられてしまっています。

本書では、「経営思想が邪魔をする理由」という第Ⅲ部で、テイラーやメイヨー、ドラッカー、トム・ピーターズの経営思想に触れていますが、それらには経営者と従業員の関係に触れているものがまったくなく、むしろ経営理論が働きがいのある会社を創るための弊害になっていると断言しています。斎藤さんもこの点に触れて、日本ではこういう書き方のできるジャーナリストも経営学者も一人もいませんね、とメールで書いてきましたが、同感です。この40年、日本の企業の多くもまた、そうしたドラッカー経営学によって、人間不在の組織になってきているように思います。

本書の目指す企業は、人のための「いい職場」の実現です。
レベリングは、「いい職場を良きものにすることを一言でいえば、そこでは働く人たちが人間のように扱われていると感じているということである」と書いています。また、「いい職場は、会社のために働く人々は会社そのものであり、そのニーズは必ずしも組織の他の目標に従属するべきではないと宣言している」とも書いています。
そこでの従業員は、決して経営の要素(人材)ではなく、表情を持った人間なのです。

組織と人とどちらを基点にするか。そこにこそ思想の違いがあります。
組織にとって人を資源(手段)と考えるのか、人にとって組織を仕組み(手段)と考えるのか。そこでは組織とは何なのかという思想的な違いがあります。
組織を使って人が豊かになるのか、人を使って組織を大きくするのか。人のための組織なのか、組織のための人なのか。どちらが目的でどちらが手段なのか。
経営者のための会社なのか、働く人たちみんなにとっての会社なのか、と言ってもいいかもしれません。

斎藤さんは、改めて本書を企業経営者や働く人たちに読んでほしいと言っています。
私も、アメリカ流の経営学による経営者視点の経営論がどういう企業を生み出してきたかを考えるとき、いまこそ改めてもう一度、働く人に基点をおいた経営を考えることが大切ではないかと思います。
そもそもそうした「働く人に基点をおいた経営思想」こそ日本的経営の強みであり、それが1970年代の日本企業の発展をもたらしたのではないかと私は思っています。

というわけで、私も本書を経営者や経営幹部のみなさんはもちろん、働く多くの人たちに読んでいただきたく、紹介させてもらいました。起業の参考にもなると思います。
活字は小さく、また2段組みで、ちょっととっつきにくいですが、内容はとてもわかりやすく、気楽に読めるはずです。

できれば年明け後に、斎藤さんにお願いして、本書をテーマにしたサロンも企画したいと思っています。

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