■湯島サロン「自閉症の若者が感じているいまの社会」報告
平日の開催にもかかわらず、18人が参加しました。
世代も20代から80代。それもみんな大きな関心を持っての参加でした。
話題提供者の南さんは、自らが5年前に攻撃性の自閉スペクトラム症と診断されたばかりか、昨年は視覚障害者とも言われたと自己開示し、それにつづいてこれまでの生活を、時に自省的に、しかしストレートに語ってくれました。
その話に、おそらく多くの参加者が圧倒されたと思います。
そこには、嘘や恨みや妬みも感じなければ、悲惨な内容にもかかわらず暗さも感じられないもので、むしろ聴く人に元気と勇気を与えてくれたように思います。
実際に、サロンが終わった後、最近、うつで落ち込んでいた参加者の一人が、今日思い切って参加してよかった、彼女の話を聞いて、うつが吹っ飛んでしまったと私に話してくれました。
そうは言っても、彼女の話は、実に重い内容で、私たち一人ひとりが考えなければいけないメッセージがたくさん含まれていました。
サロンでもコメントさせてもらいましたが、福祉問題や生活支援などの話し合いでは、よく制度が不十分とか施設はできてもそれを活かすスタッフや人材が不足しているとかいう話になるのですが、そうした問題の原因探しも大切ですが、それ以上に大切なのは、「ないもの探し」ではなく、私たち一人ひとりが自分の問題として、想像力を高めて、自分ができることを考えることだと私は思っています。
社会にもし問題があれば、専門家や制度や施設に期待するだけではなく、自分でできることに取り組むという「当事者意識」(それを私は「コモンズ意識」と呼んでいます)をみんながもてば、社会は全く変わってくるように思います。
南さんはサロンの前にこう言っていました。
私の姿、語り口を見てもらい耳で聴いてもらい、こんな人生でこんなタイプの障害者がいるのかと驚いてほしい。それか気付きやきっかけ、閃き、当日来られる方のヒントや光明になればと思います。
この言葉に、南さんの生き方が象徴されているようにも思います。
彼女の世界はいつも外に広がっているのです。
南さんはこうも言っていました。問題を投げてただ議論しても何も解決してこなかった。私のように、問題を知らせて、解決策を自分で見出せる人が、ひとりでも多く増えてほしい。彼女は考えるだけでなく、常に解決を目指している。いいかえれば、いつも現実を踏まえて前向きに生きているのです。
障害を持つとされている人だけのことではありません。そもそも「障害」は時代によって広がってきています。南さん自身、自閉症と言われたのは5年前、視覚障害者と言われたのは、つい最近。でも5年前も最近も、南さんが変わったわけではないのです。社会が「障害者」と認定しただけなのです。
ということは、誰もがいつ「障害者になるかもしれません。いやそもそも「障害者」と「健常者」と言う捉え方が固定的なものではなく、制度的なものでしかないのかもしれません。「言葉」に負けてはいけません。もちろん「甘えて」もいけない。
いずれにしろ、誰もが「問題」に気づいたら、社会に問いかけながら、解決に向かって動き出さなければいけない。南さんは、それを実践しているのです。
突然、自分が「自閉症」とか「視覚障害者」とか診断されてどう思ったか、というぶしつけな私の質問に対して、彼女はなにもかわらない、と言いました。
予想していた通りの答でした。彼女にはしっかりした自分の生き方がある。
たとえば、彼女は仕事をしていますが、障害者雇用制度などは利用せずに就職活動をしています。障害者雇用制度のおかしさに気づいているからです。
もちろん、「自閉症」や「視覚障害者」と言われたことは、彼女は素直に受け入れ、生き方に前向きに取り入れている。そんな気がします。
南さんは、生活費を稼ぐために南さんは介護職として仕事をしていますが、その忙しい合間に格闘技団体マネージャーとしてのボランティア活動もしています。いやそれだけではありません。困っている人がいたら、支援活動までしている。自分のやりたいことをするために借金までして資格を取り、人生を豊かにしようとしている。
ちなみに、みんなの前で今回のような話をするのは初めてだったそうです。サロンの後、南さんは思い切って話すことであそこまで反応をもらえるとは思っていなかったと言ってきました。そして、「思い切って話すこと」で、自分自身にも変化が起きそうな気がする、とも。まさに南さんらしいです。
南さんの話したことは、ほとんど何も報告できませんでしたが、南さんからのメッセージは少し伝わったでしょうか。参加者はそれぞれに感ずるものがあったと思います。
最後に南さんに、今回、みんなに一番言いたいことは何かと訊きました。南さんは、みんながもっとおかしなことに声をあげてほしい。そうなれば社会は変わっていくだろう」と応えてくれました。私もまったく同感です。
自分の世界に閉じこもらずに、社会に向けて声をあげていきたい。そう思います。
南さんは、今度は白杖を持って歩いている視覚障害者「弱視の南」として話すサロンをやってもいいと言ってくれています。
6月にまた南さんのサロンを企画したいと思います。
参加された方、もしよかったら感想などを投稿してください。
南さんはもっとたくさんのメッセージを発していたはずですが、私が受け止められたのはほんの一部でしかありませんので。
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