■第1回中国現代文学サロン報告
中国現代文学翻訳会の葉紅(ようこう)さんをガイド役にお願いした「中国現代文学サロン」がスタートしました。
予想以上に反響が大きく、当日の参加者も10人。日程が合わずに今回は参加できなかった人も数名いました。これだけでもうれしいことでした。
最初にどうして参加したかに関してそれぞれが思いを話してくれましたが、やはり中国のことをもっとしっかりと知りたいという思いが多かったように思います。マスコミ報道に飽き足らない人が多いようです。
みんな文学的関心があるとしても、隣人でもある中国の人たちの暮らしを知ることで、相互理解も深まり、仲良くなれるだろうという思いも強いようです。
今回は初回だったので、葉さんは、「中国の現代小説を読むためのウォーミングアップ」と題して、中国文学の「文体」「文字」「発音」そして「小説」の4つの切り口から、とてもわかりやすく解説してくれました。
それ自体、とても興味ある話で参加者からの問いかけで横道に入ってばかりでしたが、そうしたことで中国の人たちの生活や実状に少し触れたり思いを馳せたりできたような気がします。
そもそも中国で「小説」という言葉が最初に出てくるのは、紀元前の『荘子』だそうです。しかしその意味は、とるに足らないつまらない話というような意味で、文学というよりも、口承の世界の話だったようです。
中国で「文学」といえば、詩文といわれる「漢文」「唐詩」「宋詞」、そして「元曲」が長いこと主流でした。しかし、それらは「元曲」はともかく、前の3つは文字を使いこなせないと楽しめません。長いこと、一部の人たちに独占されていたわけです。
そうした状況が変わりだしたのは、20世紀に入ってからです。
そうはいっても、中国には日本でも知られている「紅楼夢」「水滸伝」「三国演義」などの、いわゆる長編小説もあります。これらは、いずれも長いこと、口承文学として、方言による話し言葉で伝えられてきたようです。
これは別に中国だけの話ではなく、識字率の関係で、文字文学は一部の人たちのものであり(したがってそこには「政治性」もあったのでしょう)、過半の人たちが楽しんできたのはどこでも口承文学なのです。
ちなみに、これらは「章回小説」というのだそうです。
これは、長い物語を何回にも分けて語り、物語の鍵となるところで突然話を終わらせて次も聞きたくなるようなスタイルで、まさに今の中国のテレビドラマ(今回のサロンでも話題になったドラマは全40話以上だそうです)を思わせるようなものです。
口承文学は言うまでもなく話し言葉で語られますが、これは「白話文」と呼ばれ、書き言葉の文体である「文言文」とは違います。しかし、古来からの文体文表現は、過度な修辞、典故の依拠、対句表現の重視などのため、難解なわりには肝心の内容を盛り込めにくかったのです。
そこで、20世紀に入ってから言文一致の動きが生まれ、「白話文」こそ生きている言語だとされ、文学においても、魯迅の「阿Q正伝」のような作品が生まれてきます。
しかし逆にそれまでは、むしろ章回小説は口承形式として伝承されてきたようです。
文字に関しては、繁体字(昔ながらの感じ)と簡体字(簡略化した漢字)について概説してくれました。
漢字は文字の数も膨大ですが、その一字一字がとても難しい。そこで識字率が高まらずに近代化の足かせになると考えられて,一時は漢字廃止論さえ出たこともあったそうです。エスペラント語はどうかという動きもあった。
発音は現在、公用語としての普通話と各地の方言がありますが、大きくは標準化に進みながらも、地域文化を大事にしていこうというせめぎあいも起こっているようです。
話を聞きながら、私は言語や文字が国家(政府)にとっていかに大切であるかとともに、それによって一部の人たちが支配構造を守ってきている歴史を感じました。
その一方で、葉さんの話から、中国文学では「発音」と「文字」がとても重要な要素なのだと思いました。文化もまた言葉と文字によって大きく影響される。
葉さんは、孟浩然の有名な「春暁」を中国語で読み上げてくれましたが、韻の踏み方も含めて、流れるようなリズムや日本語にはない発声に、たぶん文字がなければもっと覚えやすく自然に口をついて出てくるようになるのだろうなと思いました。
話し言葉の世界と文字言葉の世界の違いは、おそらく想像を超えるものなのでしょう。
こうした葉さんのお話の合間に、いろんな質疑応答や話し合がありました。
中国ドラマファンの人も数名いたこともあり、ドラマの話も出て、いまの中国への関心も高まってきました。
かくして中国の現代小説を読む準備は整いました。
そして葉さんはこう呼びかけました。
相手への理解は知ることから始まると言います。よその土地で暮らす人々を知るには、そこの良質の小説をよむというのがたいへん有効な方法と考えます。
しかし、言語というハードルでそう簡単に世界中の原書を読むことができません。そこで翻訳小説が役に立ってくれます。
現代の中国の作家が何を書き、世に送り出しているのか、中国で何が読まれているのか、気軽に短編小説を一本ずつ読んでいければと思います。
というわけで、次回から実際に小説を読んだうえで、それを題材にみんなで話し合うことになります。中国の現代文学を通して、葉さんに案内してもらいながら、いまの中国の人たちの暮らしや考え方に触れていければと思います。
まずは短編からで、最初の作品として、葉さんが訳した女性作家桃郡梅さんの「秘密の袋」を読むことになりました。
中国現代文学翻訳会の『中国現代文学』19号に掲載されていますので、参加者は事前に必ず読んできてください。
同誌はネットでも購入できますが、湯島に葉さんが数冊提供してくださいましたので、順繰りに貸し出しています。ご希望の方は湯島のサロンに来た時にでも言っていただければ貸し出します。
ちなみに、案内でも書きましたが、中国現代文学翻訳会は、「いま中国に、こんなに豊かな言語空間を有する作品があることを日本の読者に伝えたい、との思いを共有する中国現代文学研究者・翻訳者の集まり」です。
その活動の一つとして、年2回、小説、詩、随筆等、現代中国の作品を翻訳・紹介する『中国現代文学』を発行しています。https://www.hituzi.co.jp/kotoba/syokai.html
「秘密の袋」以外の小説も読みたい方は、湯島に『中国現代文学』のバックナンバーが数冊ありますので、貸出させてもらいますので気楽にお申し出ください。
次回は10月8日の予定ですが、だいぶ先なので、どなたか幹事役に手を挙げてくれたら、有志だけでの気楽な集まりも企画するかもしれません。
今回、参加できなかった方も、関心があればぜひご参加ください。
葉さんのおかげで、新しい物語が生まれそうで楽しみです。
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