■湯島サロン「今、子どもたちと過ごす中で思うこと/改めて不登校について考える」報告
不登校特例校の東京シューレ葛飾中学校の校長、木村砂織さんにお願いした「今、子どもたちと過ごす中で思うこと/改めて不登校について考える」は10人を超す参加者があり、しかもそれぞれに子どもたちと触れ合っている人が多かったので、話し合いも広がり、なかなか話し合いも終わらないサロンになりました。
子どもの現場にあまり接することのない私のような立場だと、子どもたちの学びの世界のマイナス面ばかり見えてしまい、どうもあまり先行きに希望を感じられないのでいたのですが、子どもたちの学びの現場には新しい動きが育ってきているようです。問題は相変わらず多いでしょうが、みなさんの話をお聞きしていて、子どもの育つ環境はいい方向に動き出しているような気がしました。
たとえば、学校から距離をとる子供たちが増えている一方で、そうしたことへの理解も進み、親も社会も、行政も、そうした動きにむしろ前向きに接しようという姿勢も広がっている。現場から遠い人ほど、そうした動きを理解していないのかもしれません。いずれにしろ、現状を批判するだけではなく、新しい動きを知って応援していく姿勢が大事だなと改めて感じたサロンでした。
木村さんは、自らが不登校のことに関わるようになった話から始めました。在学中に、不登校に取り組んで話題になっていたシューレの活動を知って、決まっていた就職の道を選ばずに、自らのリスクを背負って、大阪から東京に出てきて、この世界に身を投じたそうです。以来、36年、不登校の子どもたちと共に、活動しつづけてきています。
私も初めてお聞きしたのですが、その生き方に改めて感服しました。
次に木村さんは「不登校」という言葉を話題にしました。
不登校という言葉に代わる表現を探そうという動きも広がっているようですが、木村さんは「不登校」は「現象」をいっているが、「登校拒否」という表現には本人の「意志」が示されていると話してくれました。言葉は問題をどう立てるかに関わっているわけです。どちらに視点を置くかで、おのずと対処策も変わるでしょう。この認識は、この問題を考えていくときの出発点になるような気がします。
つづいて木村さんは、いま広げられている「不登校特例校」制度の話と実際に校長として関わっている東京シューレ葛飾中学校の紹介をしてくれました。
東京シューレ葛飾中学校では、子どもの個々の在り方に基本を置いて、それぞれの自主性や社会性を伸ばすことを目指す「子ども中心」の理念で、制度が設計され、運営が行われているそうです。
授業は、学年別と学年を超えた縦割りとの組み合わせで行われています。個人学習的なマイコースや家庭をベースにしたホームスクールという仕組みもあります。
授業も、子どもたちが参加しやすいような体験重視型で、時間割も紹介してくれましたが、総合学習としての「いろいろタイム」や「プロジェクト」の内容は、子どもたちの発案も生かされながら、とても楽しそうな設計になっています。
さらに放課後の自主参加プログラムもあって、子どもたちは自分に合った形で学べる(遊べる)仕組みができています。
学校の施設設計も、それに応じたものになっているようです。
学校運営に関しては、子どもが参画するホームミーティング、実行委員会、学校運営会議といった仕組みを中心に、スタッフ(先生たち)と保護者会とが連携しながら行っているようです。
保護者とのかかわり方などの紹介もありましたが、詳しくはぜひサイトなどで調べてみてください。
さらに木村さんは、教育機会確保法を紹介してくれました。
これは2016年に成立した法律で、「とにかく学校復帰」という考えを改めて、子どもたちにとって大切なのは「学校復帰」ではなく「社会的自立」だとして、多様な学び方を認めた法律です。それに基づいて出された文科省の学習指導要領には、不登校を「問題行動として判断してはならない」と明言されています。
この表現には私は違和感がありますが(文科省の責任回避のような気がします)、学校を休むことで本人も親も責められないことはいいことだと思います。
木村さんの話の途中でも、参加者からいろいろな質問が出て、話し合いも並行して行われました。
実際に子どもたちの世界と関わっている参加者が多かったので、話題はどうしても、子どもたちの世界というよりも、子どもたちにどう接するかに行ってしまいました。
しかし、そうした話し合いの中からも、いまの子どもたちが置かれている状況が見えてきます。とりわけ大人たちが子供をどうとらえているかも見えてくる。
自らの親子関係を話してくれたり、子ども観を語ってくれたりした人もいます。
私が印象的だったのは、大変な激務だと思う木村さんが、「仕事は面白くて楽しい。だからつづけられている」と話したことです。木村さんはやはり子供と接していることで、元気をもらっているのだという気がしました。そうでなければ長年つづけられるはずもない。木村さんのまわりの子どもたちも、面白く楽しい時間を過ごしているのが伝わってきます。
学ぶことも働くことも、本来、楽しいことなのだと私は思っています。
これは「介護」の分野にもいえることだと思います。そうでなければつづかないし、いい学びやいい働きにはならないのではないかと思います。
しかしこのことはなかなか賛同を得られません。現実は必ずしもそうではないからです。だからこそ、私はそう思い、そういう学び方、働き方をめざそうと思うのですが。
楽しい学びを目指している東京シューレ葛飾中学校のような学校がいつか主流になる日が来るでしょう。私にはちょっと光が見えたサロンでした。
でも子どもたちの世界はまだよく見えてこない。
参加者の一人からサロン終了後、「現代の日本のこどもたちの悩みや希望を知りたかった」というコメントが届きました。
私自身は「登校拒否」する子供たちの増加やそういう子どもたちの行動から、ある意味、とても積極的なメッセージも感じましたが、私も子どもたちから直接、悩みや希望を聞きたくなりました。
一度、子どもたちの話し合いの場を持てたらいいなと思います。あるいは、そうした調査結果を材料にサロンができればと思います。
どなたか企画してくれないでしょうか。
あるいは話題提供や問題提起したい方がいたらお知らせください。
子どもたちを話題にするサロンを少し継続させたいと思います。
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