■湯島サロン「映画『PLAN75』をどう受け止めますか」報告
自分で呼びかけながら、私自身、あまり参加したくなかったサロンですが、猛暑の中、6人の方が参加してくださいました。
映画を観ていない人も2人いたので、まずは映画の簡単な紹介。その後、このサロンを開くことになった私と川端さん(大学生)と近藤さん(70代)のメールでのやり取りの概要を各人から少し話したうえで話し合いに入りました。
3時間の長丁場の話し合いになりました。
サロンでの話し合いの報告は難しいのですが、サロン終了後、私の考えは完全にひっくり返りました。私がいかに、感情的にしかこの映画を観ていなかったかをみんなから気づかせてもらったのです。お恥ずかしい限りです。
映画「PLAN75」を完全否定していた私の感想は撤回します。主演の倍賞千恵子さんにまで悪口をぶつけていたことも反省。どうも、人のいのちがテーマになると私はいささか感情的になってしまうようです。まだ命に執着しているからでしょうか。困ったものです。
と書いても、サロンに参加していない人はもちろん、サロンに参加した人も、何が何だかわからないでしょう。サロンでも私は、この映画に批判的な発言を最後まで繰り返していましたから。私が自分の間違いに気づいたのは、サロンが終わってからの帰りの電車のなかです。いつもサロンが終わった後に、私はいろいろと気づかされるのです。
そんな次第ですので、報告が難しい。
私は、生命そのものが持っている生きる輝きが表現されていないこと、社会には無用な人という存在があるという考えを肯定していること、世代間の支え合う関係への認識がないこと、そしてなによりも、映画を観た人に実践的な行動への示唆がないことなどに反発してしまったのですが、反発の対象が間違っているのではないかと気づかされたのです。
反発すべきは、こうした映画を生み出す社会や「知」「感」の在り方ではないか、ということです。この映画があえて描いていないことこそが、大きなメッセージだと思えば、話し合うべき題材になる。それがしっかりとできなかったのは、まさに私がすでにこうした社会に浸りきっているからではないか。
話し合いの一部を紹介すれば、人間の生き死にに関して、「プラン」などいう言葉を使う穂ことに不快感を示す人がいる一方、PLAN75の制度が死の迎え方に関する選択肢を増やしてくれることは歓迎するという人がいました。後者の立場の人は、自ら死に引き込まれるような状況を体験したことがあるそうですが、自らの体験によって、受け止め方は大きく変わってくるようです。
社会的な制度が政府(お上)によって用意されることが「選択肢が増えること」という発想に、私は違和感を持ちますが、安楽死をテーマにしたサロンでも話題になったように、命は自分だけのものではないと考えれば、制度の意味も肯定できるかもしれません。これは「いのち」のあり方につながっていく問題です。
サロンに初めて参加してくださった方が、ご自身の母親を見送った辛く厳しい経験とご自身が病気で身体さえも自由に動かせない状況に陥った1年半からどうやって抜け出たかの話をしてくれました。
そして、もし母親が娘である自分のためにPLAN75を選択したら、自分は生涯、後悔の念から抜け出せないだろうと思うと、どんなにつらくても自分はPLAN75は選択しないだろうと話してくれました。
映画では、若い世代がPLAN75にかかわる高齢者から、生きる意味を気づかせてもらい、生き方を変えていく話が出てきます。
それは、社会における高齢者の役割を示唆しているようにも受け取れます。
社会は、「生産活動」や「お金」だけで成り立っているのではない。見方を変えれば、高齢者などの「社会的に弱いと言われる立場の人たち」がいればこそ、豊かな社会は成り立っていることを示唆しているとも受け取れます。
見方をちょっと変えれば、いろんな示唆が読み取れる。
そんな映画なのかもしれません。
映画とはつながりませんが、私は、帰りの電車の中で、森本哲郎さんの「ゆたかさへの旅」に出ていた話を思い出しました。
インド古代文明のモヘンジョダロの整備された都市は、ある時突然滅びてしまった。その理由は、みんながきれいな都市づくりに心がけすぎて、結局、人間がいなかればきれいな都市が完成すると考えて、自滅を選んだのではないか。その証拠に、汚い都市ベナレスは今もなお栄えている、という話です。
社会にとって、大切なのは何だろう。
いや人生にとって大切なのは何だろう。
そんなことを考えさせてくれたサロンでした。
おかしな報告になってしまいすみません。
映画『PLAN75』をお薦めします。最近の日本の社会の現実に目を向けていくためにも。
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