■第3回中国現代文学サロン「桃郡梅さんの『狡猾な父親』を読む」報告
第3回中国現代文学サロンは、桃郡梅さんの『狡猾な父親』を取り上げました。
表題の「狡猾」という言葉に含意されていることも含めて、いろんな読み方ができる作品です。
この作品を理解するには、時代背景が重要ですが、同時にこの作品から、中国社会の文化やその変化に関わる政府の政策などが読み取れます。
前回と同じく、講師役の葉紅さんは、作品を読む上での背景情報を作品に沿って解説してくれました。それだけでも中国という国を理解するとても興味ある話です。
たとえば、都市戸籍と農村戸籍が分かれていて、農村出身者が都市部に戸籍を移すことが難しい。あるいは、2013年に「老人権益保障法」という法律ができて、子どもは定期的に親の家に帰り親の面倒を見なければいけないことになった。
さらには、21世紀にはいり中国では大学が急増設され、1995年には83万人だった大学卒業生が2021年には、その10倍以上の900万人を超えた、などいう話は、中国を理解する上での様々な示唆を与えてくれます。
時に小説は、歴史書や専門書より雄弁です。
時代背景を解説した後、葉さんは参加者に「作者がタイトルに「狡猾」と表現したものは、結局父親のどんな振る舞いを指しているのか、またそれは狡猾なのだろうか。併せて議論していただきたい」と問いかけました。
参加者の感想も多様でしたが、「狡猾さ」という言葉がさまざまなメッセージになることに、改めて文学の面白さを楽しめました。
この小説の最後の一文は、実に象徴的ですが(読んでいない人にはわからない話なので申し訳ありませんが、見事な終わり方です)、その一文が問いかけることにこそ、この作品の大きな意味があると受け止めた方も一人ならずいました。私もそうですが。
私は、中国が抱えている儒教的人間世界と近代的経済世界のせめぎあいのようなものを感じながら、読んだのですが、前回同様、中国の人たちへの親近感を強めました。
海外の小説を読むことの意義を改めて感じました。
ちなみに今回は、参加者の間で、中国のテレビドラマが話題になりました。
小説やドラマを通して、そこに住む人たちのお互いの理解が深まれば、政府の関係も変わっていくだろうなと期待しています。
次回(6月9日)は、徐則臣「もし大雪で門が閉ざされていたら」(「現代中国文学」19号収載)を読む予定です。気になる表題の作品です。
「現代中国文学」はアマゾンでも購入できますが、もしご希望の方がいたら、まとめて葉さんに購入してもらいますので、ご希望の方は今月中に私宛ご連絡ください。
中国現代文学サロンは4か月ごとに開催しています。
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