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2024/05/02

■湯島サロン「アグロエコロジーから学ぶ農と食と社会のあり方」報告

吉田太郎さんの「農と食と社会のあり方」のサロンは、吉田さんのこれまでの活動紹介のあと、日本政府の「農と食」への取り組みの話から始まりました。

いま農林水産省が進めている「みどりの食料システム戦略」は3年前に策定されていますが、その実態はなかなか見えてきません。さらに日本が置かれている「農と食」の現実の酷さはなかなか私たちには実感できません。しかし、その気になれば、日本における「食と農」の問題はすぐに見えてきます。

たとえば、吉田さんは、国連のFAO(食糧農業機関)が発表している「世界飢餓マップ  2020-2022」を見せてくれました。日本は、国連公認の飢餓国に認定されているのです。つい最近も、「世界で最初に飢えるのは日本」「世界食糧危機が起これば、最初に飢えるのは日本、国民の6割が餓死する」という話が広がっていましたが、おそらくほとんどの人は聞き流しているような気がします。でも残念ながらそれは、つまり日本は世界一飢餓に脆弱な国というのは、どうも事実なのです。昨今の急激な円安で、そのことが少し実感されだしているかもしれませんが。

では日本政府はどう立ち向かおうとしているかと言えば、20数年ぶりでの農業基本法の改正です。農業基本法は「農政の憲法」と言われ、本来の理念は食料安全保障であるべきでしょう。しかし、今回の改正は、知れば知るほど不安になってくる内容です。
食料安全保障に関しては「食料自給」と「食の安全性」が根幹でなければいけません。しかし、今回の改正は、そのいずれに関しても向いている方向が逆のように感じます。そこで重視されているのは、経済や企業重視で、国民の生活への配慮は感じられません。具体的にいえば、食料自給率も有機農業や環境破壊などへの配慮よりも、産業としての農業や経済成長が重視されているのです。

しかし、世界的に見れば、農業に関する知識や技術は急速に発展し、生きるために必要な「食」と「農」について一人ひとりがみずから考え、共に実践することで、持続可能な農業をめざすアグロエコロジー運動が広がってきている、と吉田さんは言います。
そして、その実例として、タイの複合農業と「足るを知る経済」、そして、キューバのアグロエコロジーと食料主権・国民栄養教育法の取り組みを紹介してくれました。
いずれも、経済のための農ではなく、生活のための農、そして(企業の、ではなく、人々の生活の)持続可能性を目指す農のあり方であり、それが食の安全や食料安全保障につながっていると言うのです。

自然農法に関する知見や技術も急速に高まっています。それに関しても吉田さんはいろいろと紹介してくれました。
日本と違い、世界は大きく変化しているのです。にもかかわらず、なぜ日本は「農」も「食」も経済成長の視点でしか考えておらず、食の安全性も食料自給率も改善されていないのでしょうか。そして何よりも、相変わらずの化学肥料・農薬依存の農業が主流になっているのでしょうか。

吉田さんは、いろいろなことをお話しくださったのですが、私が一番驚いたのは、日本では戦前、化学肥料が高価だったため微生物を利用した農業技術開発が取り組まれていて、菌根菌が作物の生育を促進することも提唱されていたということです。最近ようやく日本でも菌根菌システムが話題になってきていますが、かつては日本が一番進んでいたのかもしれません。それがなぜかどこかで路線を変えさせられてしまった。
言うまでもありませんが、化学農薬はそうした菌根菌ネットワークを破壊してしまいます。土の中にいる多くの微生物が、近代農業の普及によって減少し、農業の発展によって「土」がどんどん失われていると言われていますが、農薬企業にとっての持続可能性と土壌の持続可能性は相反するわけです。

ウクライナに次ぐと言われるほどに土壌の豊かな国だった日本の農は、いったいどうなってしまったのか。最後に吉田さんは、そういうことを考えていくと、いわゆる「陰謀論」説に行きついてしまうと言います。

以上は、吉田さんが話してくれた話の一部です。アグロエコロジーに関しても、いろいろと解説してくれましたが、私の知識ではなかなか紹介しきれません。幸いに吉田さんは、ご自分のFBでも当日の報告を書かれているので、ぜひそれも読んでください。https://www.facebook.com/taro.yoshida.946/posts/pfbid02fLDCBBAt99aQ52tCus71V9tLshVzMr1npL1NhBQpVLLe8bxGhki4Tex6WiDZQs3Bl

そこにも書かれていますが、話し合いを聞いていて、私たちは、あまりに現実を知らないのではないかということを改めて感じました。
吉田さんの話は簡単に言えば、農や食に関するこれまでの「常識」を問い直そうと言うことだったような気がします。

有機農業はほんとうに慣行農業に比べて手間がかかり収量も低いのか。そもそも栄養価や味や生産者の被害や環境破壊なども含めて総合的に見た時に有機野菜はほんとうに高価なのか。慣行農業と有機農業とで、生産者の負担(健康被害も含めて)はどちらが大きいのか。
そしてそうした「常識」は、なぜ今も問い直されずにいるのか。

サロンには吉田さんもつながりの深い霜里農場の金子友子さんも参加していました。
金子さんはちょうど最近、「有機農業ひとすじに」(金子美登・金子友子共著 創森社)という本を出版されました。そこに日本では有機農業で十分に食料自給が可能なことが、金子美登さんによって具体的に説明されています。
有機農業とは何かも、この本を読めばよくわかります。ぜひお薦めの本ですが、いつか金子さんか吉田さんに、この本の紹介サロンをしてほしくなりました。
できればみなさんにも読んでいただきたいです。湯島にも置いてありますので、読みたい方はお申し出ください。

まだまだお伝えしたいことはたくさんありますが、長くなってしまいました。
食と農に関する常識を、ぜひ一度、問い直してみてください。
安全保障のために軍事費倍増とか核武装論とか出ていますが、国民にとっての安全保障は「食料安全保障」であることは言うまでもありません。
なぜそんなことに気づかないのか、不思議でなりません。

それと書き落としましたが、吉田さんは、これから大切なのは「ローカルな自治」だとも話してくれました。これもこれまでの湯島のサロンでの大きなテーマの一つで、コスタリカの事例や食の安全性の問題、あるいは地域通貨などでもよく話題になっています。
今年から始めたサロン「コモンズの回復」も、ローカルな自治につながっています。
食と農とは、政治・経済すべてにつながっているのです。

Yoshida20240428000 Yoshida20240428000

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