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2024/06/17

■第4回中国現代文学サロン「徐則臣『もし大雪で門が閉ざされていたら』」報告

第4回中国現代文学サロンは、徐則臣さんの「もし大雪で門が閉ざされていたら」(「現代中国文学」19号収載)を取り上げました。案内役は中国現代文学翻訳会の葉紅さん(駿河台大学教授)。

前回までの2作品は、いずれも都会で働く「農民工」の話でしたが、今回は北京に憧れて、地方からやってきた若者たちが主役の話です。中国では北京に漂う人という意味で、「京漂」と呼ぶのだそうです。

前回読んだ作品の主人公の農民工は貧しいながらも生活の基盤があり、きちんとした仕事にもついていますが、「京漂」たちは、都市戸簿もないため、まともなアルバイトもできず、結局は都会には定着できずにまた故郷に戻っていく人も多いようです。
仕事も、証書の偽造や販売などの不法な仕事であり、したがって生活環境も、たとえば今回の作品の登場人物たちは、3人で一部屋に暮らしているという状況。違法ともいえる仕事をしています。

その3人が、鳩を捕まえて食べてしまったことから、その鳩の持ち主と交流が始まるのですが、その鳩の持ち主もまた、「南からきた京漂」です。そして彼もまた3人と一緒に暮らすようになるのですが、その触れ合いの中で、3人は変わってく。

これだけでは何のことかわからないでしょうが、本作品の出だしは「宝来が殴られて頭をヤラれ、花街に帰った後、北京の冬はすぐにやって来た」です。宝来は3人の京漂の仲間です。その後、「南からきた京漂」(林と言います)が3人の仲間になるのですが、雪のために死んだ林さんの鳩を「鳩をどっかに埋めてくるよ」で、この作品は終わっています。3人が林さんと知り合ったのは、3人が林さんの鳩を打ち落として食べてしまったからなのですが。
鳩を食べていた3人の京漂が、鳩を悼むようになり、暴力の町は思い合うようになった。その直接の契機は「大雪」で門が開かなかったから。

ますます訳が分からない説明になっていますが、本作品を読めば、その流れがたぶんわかります。そしてそこに込められたさまざまなメッセージも。

葉紅さんは、まず、4人の登場人物を整理してくれました。加えて、訳し方が文章に直訳すぎていて文意がきちんと伝わらないようなところを、丁寧に解説してくれました。これがとても示唆に富むものでした。
文章単位で訳してしまうと意味が伝わりにくいことがあるのは、日本語と中国語の思考の単位が違っているからかもしれません。段落(パラグラフ)ごとに大意を掴むと意味がさらによくわかるという事例をいくつか説明してくれました。日本語と中国語の文章構成の違いがこうしたところに出ているのかもしれません。欧米の翻訳書がわかりにくいのも、こんなところに理由があるのかもしれません。

こうした説明を聞いたうえで、改めて作品を読むと、さらにいろんなことが読みとれます。タイトルの「もし大雪で門が閉ざされていたら」にも、象徴的な意味が込められていますが、その受け取り方も変わってくる。

葉紅さんの解説の後のみんなでの話し合いも興味深いものがありました。
同じ作品でも受け取り方は大きく違いますので、他の人の感想はとても興味深い。

「鳩」は「京漂」たちを象徴しているのですが、その「鳩」と「雪」、さらに「門」の三題噺だと受け止めて読みなおしてみると、また違ったメッセージを受け止められるような気がしました。
参加者のおひとりが、この「門」は「天安門」ではないかと指摘されましたが、そこまで考えていなかった私は、その一言で、この作品の意味が一変してしまったような気もしました。
読み方によっては、最後の一文の意味が、暗くもなれば明るくもなる。

でもこうして説明しても、読んでいない人には何も伝わらないでしょうね。すみません。ブックサロンの報告は難しい。作品を掲載して本は湯島にありますので気が向いてら読んでみてください。

ちなみに私は、この作品から「プレカリアート」と言われる、新しい貧困者たちのことを思っていましました。経済的貧しさに立ち向かうために、かつては「支え合い」や「思い合い」の人のつながりがあった。貧しいながらも、身を寄せ合って生きる仲間(コモンズ)がいた。でも最近は経済的な貧しさが逆に人のつながりを切っている。それが「プレカリアート」と言われる新しい貧困状況です。
「京漂」たちは、まだ戻れるところがある。人のつながりも回復できる。でも「プレカリアート」には戻れる「居場所」がない。ひきこもる場所さえないのです。経済成長を高めるためには、プレカリアートを増やさないといけない。
昨今の中国からの観光客の言動を見ていると、何やら経済的豊かさの向こうに、「プレカリアート」を見てしまう。日本がそうだったからかもしれません。
ますます舌足らずでわかりにくいですね。すみません。

次回は同じ作者の「養蜂場旅館」(現代中国文学8号 ひつじ書房)を取り上げます。開催日は10月13日(日曜日)です。

「現代中国文学」はアマゾンでも購入できますが、もしご希望の方がいたら、まとめて葉さんに購入してもらいますので、ご希望の方は今月中に私宛ご連絡ください。

中国現代文学サロンは4か月ごとに開催しています。

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