■第2回ブックサロン報告
ブックサロンの2回目は、小坂井敏晶さんの「社会心理学講義」と向田邦子さんと須賀敦子さんのエッセイが取り上げられました。
まずは大塚芽生さんが、何回も何回も読んで、生き方にも影響をもらっているという向田邦子さんの「夜中の薔薇」のなかの「手袋をさがす」を紹介してくれました。
寒くても、「気に入った手袋が見つからないから」手袋をしない、という生き方とあんまり気に入らないけれども寒いので手袋をする生き方。どちらが幸せな生き方だろう。
まあ極めて簡単に言えば、そういう問いかけをしてくるエッセイですが、もちろんそんなシンプルな問いかけで終わっているわけではありません。
私は向田さんの作品を意識的に読んだことがなかったのですが、このサロンのおかげ、読ませてもらいました。新しい河出文庫版では爆笑問題の太田光さんが解説を書いていますが、それを読んで、「手袋をさがす」を2回、読みなおしました。大塚さんの思いがなんとなく伝わってくる。というか、私も繰り返し読んだ作品のことを思い出しました。私も別の作品からではありますが、たぶん生き方を問われていたのです。
参加者のおひとりは、高校2年生のころからの愛読者でいまなお大事にしているそうです。それほどの愛読書を持たない私は、少しうらやましい気もしました。
もう一人の須賀敦子さんも、「夜中の薔薇」ファンのおふたりは素晴らしいと話していました。たしかに素晴らしい。私も少し読んでみましたが、でもこちらは私には面白いだけで終わってしまいました。
ちなみに男性の参加者は、あまり読んでいなさそうでした。
そもそも男女では、どうも読書ジャンルも違うようです。
後半は遠山さんによる「社会心理学講義」の紹介。かなり密度が高く常識否定的な、このテキストをどう紹介するのかとても興味がありました。
私は、小坂井さんの考えや生き方には共感しているのですが、それをアリスト哲学が好きな遠山さんがどう解釈するのかにも興味がありました。遠山さんも直前まで苦労したようですが、結局、本書の第10章「少数派の力」を中心に解説してくれました。おそらく初めて聞いた人には難しかったように思いますが、正統的な考えや「常識」とは違った視点で、社会が変わっていくことを解析していること、有名な文献での知識に依存していては主体的には生きていけないのではないかというメッセージをなんとなく受け止めたかもしれません。「犯罪とは何か」「正義とは何か」を考える上での視野を広げてくれるような気がします。
そもそも「学問」や「知」は、現状維持のためにあるのか、現状改善のためにあるのか、そうした問題にまでつながるメッセージのような気がします。
本書の副題は「開かれた社会と閉ざされた社会」です。この意味は、小坂井さんにとっては、本質的な問いかけです。
遠山さんからも解説がありましたが、本書にはこんな文章があります。
「開かれた系として社会を理解するとは同時に、普遍的価値の定立が不可能だと認めることです。殺人や強姦の禁止なども含めて、すべてが相対化される。たった一つでも普遍的価値が存在すれば、それは閉ざされた社会です」(382頁)。
「開かれた社会とは、社会内に生まれる逸脱者の正否を当該社会の論理では決められないという意味です」(43頁)。
つまり社会が開かれているとすれば、まだ「知らないこと」があるので、すべてが相対化され、真理や普遍的価値は存在しない。これは近代の思想や科学の思想には合わないでしょう。真理や普遍的価値がないにもかかわらず、社会を秩序化していくためには、虚構の真理や正義や制度を構築していかなければいけません。そして私たちも、たとえば、同調圧力を踏まえて生きていかなければいけない。
ちなみに、ここでいう「知らないこと」への関心こそが「少数派」の力ではないか、と私は受け止めています。
ちょっと長くなってしまいましたが、それでもたぶん小坂井さんのメッセージはうまく理解できないと思います。なにしろ「テキスト」ですから。
そこでこの書籍に関しては、これから数回にわたって遠山さんに解説してもらいながら、みんなで話し合う「研究会的」サロンをやることになりました。
今回は参加者がそれぞれ推薦書籍を出し合うセッションはありませんでした。
次回、取り上げる本や紹介者はまだ決まっていません。どなたか手をあげてくれませんか。
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