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2024/08/29

■近藤サロン②「ドーキンスの道具箱から人間社会の背後にある駆動原理を考える」報告

近藤和央さんの「『利己的な遺伝子』論から眺める人間論」のサロンが始まりました。

「進化論」を補助線に使って、人間(社会)のことをいろいろと考えていこうというサロンです。言い換えれば、そうしたことによって、逆にドーキンスや進化論の世界を読み解いていこうというわけですが、毎回、あるテーマが取り上げられ、サブテキストも紹介されるようです。ですから単発参加もありのサロンです。

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例によって、近藤さんは大きな概念マップを見せながら、今回は、遺伝子の利己性とその乗り物が示す利他的に見える行動の関係モデルを「個人と社会」の関係モデルにレベルシフトし、「他者や社会との関係性という文脈の中における個人の振る舞いの利己性・利他性」について考察したい、と話しだしました。
近藤さんらしく難しい。

でもその後の問いかけは、わかりやすいものでした。
なぜ私たちはみんな、「殺すなかれ、盗むなかれ」と思うのか。そういう善悪・正義・道徳という価値観はなぜ生まれたのか。
これが今回のテーマです。
つまり、〈倫理〉〈道徳〉、あるいは私たちの生き方を、ドーキンスの〈利己的な遺伝子〉につなげて考えていこうというのです。

そして今回のメインツールは「人間行動進化学」。参考書としては気楽に読める光文社新書の「進化倫理学入門」をあげてくれました。毎回、こうして手ごろなテキストが紹介されるようです。

いま話題の哲学者マルクス・ガブリエルは、「現代社会の行き詰まりを打開するのは〈倫理〉である」と最新作の「倫理資本主義の時代」に書いています。
〈倫理〉というとまさに哲学の世界の話ですが、ドーキンスは『利己的な遺伝子』のなかで、「哲学と、「人文学」と称する分野では、今なお、ダーウインなど存在したことがないかのような教育が行なわれている」と嘆いています。

しかし、今回近藤さんが取り上げた、「進化倫理学」によれば、倫理や道徳もまた、自然選択によって進化してきたものであるというのです。
そして近藤さんは、冒頭に「希望はある」と断言しました。基本に「利己的な遺伝子」がいれば、安心していいでしょう。

話がどう展開したかは書き出すときりがありません。
冒頭から参加者による質問がつづき、さすがの近藤さんも話が前に進まない。
でも話し合いの中身を感じたい方は、添付した近藤さんの話のアウトラインマップをじっくりと見てください。このすべてが話し合われたわけではありませんが、行きつ戻りつ、いろんな話が飛び交いながらこんな話が展開されたのです。

ダウンロード - e8bf91e897a4e382b5e383ade383b3efbc92e8b387e69699.pdf

大きなテーマの一つは、マップにもありますが、個体の利他性とその遺伝子の利己性です。広げて言えば、主体と乗り物(表現型)の関係であり、それらが幾重にも、まるでマトリョーシカのように重なっているのです。
しかも単に空間的にだけではなく、時間的にも、です。
だからどこをとるかで、利己と利他が入れ替わってしまう。
たとえば、いまの自分には得だ(利がある)が、長い目で見れば(未来の自分には)損だ(利がない)というようなことは誰にもすぐわかるでしょう。

そしてここが、進化倫理学のポイントなのですが、そういう私たちの〈倫理観〉や〈道徳観〉は、生命としての「進化」のたまものであり、ドーキンスの「利己的な遺伝子」につながっているというのです。
進化は人間の形態に影響を与えているだけではなく、人間の心的な諸機能の起源もまた、進化の結果なのです。つまり、思索や知的営みの結果ではない。
我々の道徳的な思考法も自然選択によって進化してきた。ですから、倫理や道徳は、生命の自然の進化の結果なのです。
「殺すなかれ、盗むなかれ」と言うのも、一言で言えば、それが結果的には「得だから」なのです。

進化の仕組みからくる生物一般の基本的性質である「利己性」が、まさに「利他性」を生み出している。あるいは「社会」を育てている。それが「進化」の流れ。
これは私にとっては感動的なメッセージです。

要するに小賢しく考えることなく、自然の流れに身を任せれば、幸せや豊かさがやってくるというのですから。要するに「素直に生きる」ことこそが「倫理的」なのです。
利己とか利他などという小賢しいことにこだわっていてはいけない。
私がサロンでも時々話して厳しい批判を受けている「すべての人は性善」という捉え方も、そこから出てくる気がします。

進化倫理学では、「互恵的利他性」という考えも重要ですが、それはまさに「社会の形成原理」につながっている。ですから、進化倫理学は進化社会学へと展開されていくはずです。
そんな議論をもっとしたかったのですが、あまりに問題は大きく時間切れでした。
このテーマをもう少し掘り下げてほしい気がしますが、あまりこだわっていては前に進まない。
でもいつかまたじっくりと話し合うサロンを近藤さんにお願いしたいと思っています。

ちなみに今回近藤さんが紹介してくれた、内藤淳さんの「進化倫理学入門」(光文社新書)はとても読みやすい本ですので、よかったらどうぞ。それが物足りない人は、ちょっとハードですが、スコット・ジェイムズの「進化倫理学入門」(名古屋大学出版部)も読みやすいです。いずれも近藤さんのお薦めです。

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