■湯島サロン「『社会心理学講義』を読み解く①」報告
哲学者遠山哲也さんの「社会心理学講義」(筑摩選書)を読み解く連続サロンが始まりました。難しい本なので、果たして参加者は集まるだろうかと心配でしたが、何と予想をはるかに超えて、10人以上の人が集まりました。
これから遠山さんを先導役にしてじっくりと読んでいきますが、今回は初回なので、遠山さんが『社会心理学講義』の全体像を、遠山さん風に紹介してくれました。
遠山さんによれば、本書の目的は、社会心理学の本来の目的である「社会と心理の止揚(矛盾した二項を高い次元で統一すること)」へ原点回帰することだと言います。
そしてそのための論点として、「虚構」「矛盾」「学問」の3つに注目して、それぞれに関して話し合う材料を提供してくれました。
「虚構」に関しては、小坂井さんは「社会(政治形態)、心理(個人の主体・同一性)が成立する根拠は、虚構にある」とし、しかしそれは成立と同時に構造が隠されることによって、機能するといいます。
「虚構」を「共同幻想」と同じような意味合いで使っているのですが、幻想という「与えられるもの」ではなく、「構築していくもの」という意味合いを含意させるために、「虚構」という表現を使ったのでしょう。ここに小坂井さんの思考の姿勢を感じます。
たとえば、「自由意志は責任のための必要条件ではなく、逆に、因果論的な枠組みで責任を把握する結果、論理的に要請される社会的虚構に他ならない」と小坂井さんは言います。そして、「虚構の物語を無意識に作成し、断続的現象群を常に同一化する運動がなければ、連続的な様相は我々の前に現れません」。こうした虚構を創り出すことで、無自覚に対象の差異を無視し、「錯覚」することで社会・個人は成り立っていると言います。まさに社会も心理も「虚構される存在」なのです。
矛盾については、その意義を解説してくれました。
これも社会や心理を捉えるためのキーワードです。
新たな発見は、既知の事実、データが矛盾を通して新たな視点で再解釈された時に生まれます。「異質な見方のぶつかり合いを通して矛盾に気づき、矛盾との格闘から新しい発想が生まれる」ように、「既存の知見・常識の矛盾や対立と創造活動は切り離せません」と小坂井さんは言います。
たとえば、開放と閉鎖に関してもふつうは反対概念として捉えられますが、両者は実は論理的な相関関係にあるかも知れない、と小坂井さんは考えます。そして、日本の西洋化に関して、こういうのです。「日本は支配されなかったにもかかわらず、西洋化したのではない。逆に、支配されなかったからこそ、西洋の価値を受け入れた。日本社会は閉ざされているのにもかかわらず、文化が開くのではない。逆に社会が閉ざされるからこそ、文化が開く」。「矛盾は創造を生む泉」であり、「知識とは常識を破壊する運動」だと小坂井さんは言います。
矛盾やノイズ、ズレや違和感を大事にしている私には、とても共感できます。
しかし、遠山さんにとっての最大の関心事は、3つ目の「学問」にあるようです。
「学問」というとアカデミズムの世界の話になってしまいますが、遠山さんが言う「学問」とは「学ぶこと」であり「知とはなにか」ということ、さらには「自己を知ること」と言っていいでしょう。遠山さんが取り組む「哲学」と言ってもいい。
遠山さんが、今回の連続サロンを通して目指すのは「自己を知ること」「自己を問い質すこと」のようです。そのためには、「社会」も知らなければならない。そして「知ること」つまり「知のあり方」も考えないといけない。本書はそのガイドブックになる、と遠山さんは考えているのです。
つまり、本書を読みながら、「自己を知る」旅に出ましょうと遠山さんは呼びかけているように思いました。
遠山さんの話を、私が受け止めた理解で説明してしまいましたが、遠山さんの意図とはずれているかもしれません。
しかし、遠山さんは、哲学は「実存」の取り組みでなければならない。「実存」の取り組みとは、それを通して自己変革が起きるもの。本来の学問は、自己のアイデンティティを確かめるためにどうしてもせずにおれないもの。つまり、「自己を知ること」にこそ意味があると考えているようです。
小坂井さんも、「本当に大切なのは自分自身と向き合うことであり、その困難を自覚すること、それだけです」と書いています。
本書の大きなメッセージと主要な3つの論点は伝わったでしょうか。
ただしこれはあくまでも遠山さんの「読み方」です。
焦点の当て方が違えば、メッセージも変わっていきます。知のあり方も変わってくるでしょう。虚構の捉え方も変わってくるかもしれない。
本書を読んでいない人にはチンプンカンプンかもしれません。
でもこのサロンは、「知識」を得るためのものではなく、『社会心理学講義』からのメッセージを受けながら、それに基づいてみんなで話し合う、というサロンです。
遠山さんも、「自分自身と向き合うことの大切さとその難しさ」を話し合えればと考えています。まさに、「哲学的」な、でもとても実践的で、具体的な話し合いになりそうで、楽しみです。
話し合いながら自らを問うていくサロン。一見、敷居が高いようですが、まあそんな場に出るのも結構いい刺激になるかもしれません。報告よりも、サロンの現場のほうがカジュアルなので、気楽にどうぞご参加ください。
時に、異質な場を体験するのもいいことです。
次回は8月30日(金曜日)です。
テーマが決まったらご案内します。
ぜひご予定ください。
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