■湯島サロン「サンティアゴ巡礼に行きました」報告
4月にサンティアゴ巡礼に出かけた仲谷透さんが、ようやく戻ってきました。
フランスのピレネー山脈越えから始まる、いわゆる「フランスの道」のルートで、約800キロを33日で歩き切った後、ポルトガルやイギリスを回っていたため、5か月の旅でした。
案内では、ポルトガルやスコットランドの話も話題にと書きましたが、今回はサンティアゴ巡礼に絞りました。
それにしても、サンティアゴ巡礼を話題にすると参加者がどうしてこんなに多いのかと驚くほどです。今回も14人が参加。
仲谷さんはまず今回歩いた「フランスの道」を地図と標高図を使いながら紹介し、全行程を5つに分けて、詳しく説明してくれました。
巡礼路を歩きだす前の話もありましたが、そこでもちょっといろいろあったようです。
たとえば、巡礼後、ポルトガルなど旅する予定があったので、それ用の荷物をサンティアゴに送ったのだそうですが、そこに巡礼中に必要なものまで間違って入れてしまったのだそうです。出発前に早速の現地調達に苦労したようです。
順調な巡礼よりも、そういうトラブルがあってこそ、巡礼は記憶に残るものになるでしょうが、歩き出す前のトラブルは仲谷さんにとっては大変だったことでしょう。何しろ誰も知り合いはいないのですから。
しかし、そんなトラブルにもめげることなく、歩き出しはいたって好調だったようです。最初のピレネー越えはかなりの上り下りですが、全く問題なし。
仲谷さんは普段からよく歩いていたので、歩くのはお手のもの。ただ朝が苦手なので、宿の出発はかなり遅く、たぶんどの宿でも最後の出発だったと思われますが、歩くのが速いので、次の宿への到着はむしろ早かったようです。
いずれにしろ順調なスタートで、最初の数日で、何人かの知り合いもできたようです。
ちなみに仲谷さんによれば、巡礼で歩き出す前半のほうが、仲間意識も生まれやすく、いい関係がつくりやすいそうです。
大聖堂が近くなると、巡礼者も多くなり、雰囲気は大きく変わってくる。大聖堂から遠いほど、巡礼仲間ができやすいというのはとても面白い。
とまあ、序盤は巡礼を楽しんだようですが、次第に疲れが出てきたうえに、後半に至っては悪天候にも悩まされ大変だったようです。
「フランスの道」は、まんなかは平坦な道が続くのですが、サンティアゴが近づくにつれて上り下りが増えてきます。右脚が腫れて歩けなくなって同じ場所で2泊したりしたこともあったそうです。身体は痛いし、疲労感はつのる。便秘にも襲われる。さんざんです。でも便秘の時も、医者に行かずに、スーパーマーケットで野菜サラダを買って乗り越えた。どうも食事も仲谷さんには合わなかったのかもしれません。
大聖堂に近い100キロは特に巡礼者が多く(そこだけを目指してくる人も多い)、前半のゆったりまったりの巡礼風景とは違い、観光地のような人の多さだそうです。これも仲谷さんの気をそいだ一因かもしれません。
これまで話をしてくれた人の多くは、巡礼の終盤に近づくと、もうじき巡礼が終わるのが残念だという気になると聞いていましたが、仲谷さんの場合はそういうことはまったくなかった。むしろ早く巡礼を終わりたいという気持ちだったようです。
実に新鮮なサンティアゴ巡礼報告です。
意外な気もしますが、とてもよくわかる気もする。
しかも、です。何とか歩き切ってサンティアゴ大聖堂にたどり着いたのに、最後のクライマックスといわれる大聖堂のミサにも参加せず、あの有名な大香炉の大振り子も見てこなかったというのです。
いかにも仲谷さんらしいですが、でもよほど疲れていたのでしょう。いや、ある意味、実に純粋といえるかもしれません。仲谷さんの純粋な巡礼精神が感じられるとも言えます。まあ、ただただ疲れただけだったかもしれませんが。
ところで仲谷さんは、何のために巡礼に行き、巡礼で何を得てきたのか。
仲谷さんは最近、母親を見送ったのですが、それが仲谷さんがサンティアゴに出かける理由の一つでした。自由な時間が得られると同時に、自分の生き方を改めて考える必要がでてきたのです。
だからサンティアゴ巡礼だけではなく、その後、ポルトガルを彷徨し、さらにスコットランドでボランティアライフを体験してきたのです。サンティアゴ巡礼だけが目的ではなかったのです。
もちろん仲谷さんは、巡礼は疲れたと言いますが、「1か月でこれほどの濃い経験ができるのはサンティアゴ巡礼ならばこそだろう」とも言います。
本人は、「毛虫から蝶へ」というような大転換も実感できずにいると言っていますが、たぶんサンティアゴ効果が出るのはこれからでしょう。すでにその予兆を感じている人も多いようです。私も感じています。まだ「さなぎ」段階ですが。
仲谷さんは最後にこんな話もしてくれました。
なぜ世界各地から多くの人々がサンティアゴ巡礼路を歩くのかをネット検索した結果、最も本質に迫っていると思う文章を見つけたというのです。
仲谷訳で紹介します。
私たちは、自分自身より何か大きな事を行うコミュニティの一部になることを生まれつき必要としていて、この必要性を満たす為にサンティアゴ巡礼路を歩く。
I believe we have a deep innate need to be part of a community doing something bigger than ourselves.
仲谷さんはこれこそ、これが他の旅とは違う点ではないか。と言います。
サンティアゴ巡礼路を歩くとサンティアゴに向かって歩くという目標を共有する共同体の一部になれる。これが仲谷さんの感想のようです。
さて、果たして仲谷さんは「何か大きな事を行うコミュニティの一部」になったのでしょうか。日本に戻っていつもの生活に戻ってしまったら、せっかくのサンティアゴ効果が消えてしまうのではないか。
サンティアゴ巡礼の常連者である鈴木さんによれば、注意しないと元に戻ってしまう。だから今のうちに、何かを始めなければいけません。仲谷さんもどうやらその気ですが、それが見つかっていないようです。さてさてこれからどう展開していくか。
ちなみに仲谷さんの海外彷徨3部作のサロンは続きます。
次回は「スコットランドでの庭園ボランティア編」です。
10月12日。ぜひご参加ください。
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