■湯島サロン「『社会心理学講義』を読み解く②」報告
遠山哲也さんの「『社会心理学講義』を読み解く」サロンの2回目は、13章の「日本の西洋化」が取り上げられました。
難しいテーマにもかかわらず、しかも台風のなか、10人の参加がありました。
この章では、「変化しながら同一性を維持してきた」日本が取り上げられますが、遠山さんはその問題ではなく、同書が問いかけている次の2つの問題を参加者に問いかけました。
日本は西洋の植民地にならなかったのに、なぜ「西洋化」したのか。
そして、そもそも外国人が少なく閉ざされた社会が、なぜ開かれた文化を持つのか。
この2つの命題には、矛盾はないのか、もし矛盾があるとすれば、それをどう理解すればいいのか。そこから話が始まりました。
前者は、前回の「変化を引き起こすのは多数派ではなく少数者」というテーマにつながっています。そして、読み解くカギは「○○化」というものをどのレベルで、つまりどこまでの深度で理解するかという問題のように思います。
おそらくこれは前回の議論を改めて整理する問いかけのような気がします。
さらには「変化とは何か」にもつながっています。
後者もまた、閉ざされたと開かれたをどう理解するかで問題は大きく変わってしまいます。小坂井さんも本書で書いていますが、そもそも「開放」と「閉鎖」は反対概念というよりも相補関係にあるのではないかと捉えれば、矛盾律は成立さえしないのです。
そもそも「矛盾」は決して「正-反」関係ではないのです。
極めて荒っぽく整理すれば、こういうことになってしまいますが、遠山さんはこうした過程に含意されるいろいろな示唆を、本文をていねいに読みながら言語化して参加者に問いかけてくれました。
正直、私自身はこの章は退屈過ぎて速読で終わってしまっていましたが、こうして遠山さんのガイドでゆっくりと読むと改めてさまざまなことに気づかされます。
一人で読むのと複数の頭で読むのとでは明らかに違ったものが見えてくる。
私自身は、この2つの問いは、あまりに表層的で、矛盾律を設定する「問いの立て方」が退屈だと思っていましたが、「矛盾」を安直に解消して納得するのではなくではなく、むしろ矛盾を正面から受け止めて、先鋭化することによってこそ、新しい気づきが得られる。「矛盾の立て方」に問題があるだけではなく、「矛盾の解き方」も大切なのです。まさに、前回も話題になりましたが、矛盾こそは新たな知や実践を生み出す泉です。
遠山さんは、本書の最初に書かれている「知識とは固定された内容ではありません。世界像を不断に再構築し続ける運動です。驚きをもたらさない知識などは、その正しさが証明されても、たかが知れている」(本書52頁)という箇所に今回言及しました。私はこの文章をスルーしてしまっていましたが、「驚きをもたらさない知識などはたかが知れている」という言葉には、知識や学びの本質が込められているような気がしました。
今回の報告は私の受け止め方中心に書いてしまいましたが、参加者それぞれによって受け止めは違っていたと思います。
話し合いもいろいろありました。「西洋化とは何か」とか、開かれているとか閉ざされているとかは何で評価するのか、異質との触れ合いが直接的なのか間接的なのかでまったく受け止め方は違ってくる、閉鎖的な社会と開放的な文化というときの「社会」と「文化」とは何が違うのか、さらには「矛盾」を解くことで、「正-反-合」という、いわゆるアウフヘーベン(止揚)という話題も出ました。まあいろんな議論がありました。
ちょっと残念なのは、そうしたいろいろな議論や解き方が、相乗的に絡み合うところまで行けなかったことです。それにはもう少し時間が必要なのかもしれません。
ちなみに、最後のあたりで遠山さんから私に「常識」の「矛盾」を考える事例として、私が入院中に病院の廊下を裸足で歩いて、看護師長に叱られた話をするように言われました。案の定、改めて参加者みんなからまた非難されました。あまりに非常識すぎて、受け入れられなかったようです。いや、話し方がまずかったのかもしれません。
やはり常識に従って生きるのが社会に波風を立てない生きるポイントかもしれません。でもそれでは何も変わらない。
13章の最後には「比喩の効用」が出てきます。遠山さんは最後にそれについても急ぎ足で紹介してくれましたが、これはとても大切なテーマなので、参加者の希望で次回、改めて「比喩」をテーマにすることになりました。
これは「問いの立て方」にもかかわってきますし、知や学びにとっても重要なテーマだと思いますので、ぜひまた多くの人に参加してほしいです。
開催日は9月27日(金曜日)です。
また改めてご案内しますが、ご予定ください。
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