■湯島サロン「犯罪のないまちづくりを探す旅」報告
昨年から、毎年約2か月間、治安のいいと言われている国でホームステイをしながら、どうして治安がいいのかの理由を探す旅を始めた森田愛さんに、その思いと2つの都市の生活体験から得た感想を話してもらうサロンでした。
森田さんは最初に、なぜこの旅を始めたのかを話してくれました。
なんと始まりは小学生時代。テレビで青少年の犯罪がニュースで流れ、気持ちが激しく動き、どうにかしないといけないという気持ちを強く持ってしまったのが始まりです。このこと自体が、とても考えさせられる話ですが、それからいろいろあって、昨年から「犯罪のないまちづくりを探す旅」を始めたのだそうです。
実際には、経済平和研究所が発表する世界平和度指数を基準に、まず国を決めて、そこから先日の仲谷さんのサロンで話題になったwork exchange programをつかって、ホームステイできるところを探すのだそうです。
これまで、世界平和度指数が世界1高いアイスランドと、7番目のポルトガルに行きましたが、今年は11月からデンマーク(8番目)に出かける予定です。
旅は始まったばかりですが、2つのまちでの滞在で感じたことを話してくださいました。ちなみに、滞在したまちはアイスランド(人口約40万人弱)では国内第2の都市アークレイリ(人口2万人弱)、ポルトガル(人口1000万人)では歴史村カステロ・ノーボ(人口300人ほどの集落)。
森田さんにとっては、いずれも日本よりも安心できるようなところだったようです。
2つの「まちの暮らし」には共通点と違いがあったといいます。
森田さんは写真を使いながらそれを体験談も含めて話してくれました。
共通点として森田さんがあげたのは4つ。
- あいさつを現地の人から交わしてくれる
- 国籍による差別的な扱いがない
- 家族、親戚、地域の人々との交流が頻繁にあり、その時間を優先的につくる
- 治安が良くても鍵を閉めている(犯罪を起こさせないようにしている)
①③は、私が子どもだった頃の日本もそうだったと思いますが、最近はどんどんなくなってきています。②と④は日本にはあまりなかったような気がします。
森田さんは、この旅を始める前から、「家族を含めて近所の人や身近な人のケアをお互いにできていたら犯罪は生まれないのでは」と思っていたそうですが、その仮説を改めて確認したようです。
つづいて違う点。これがなかなか面白い。
まず「人との距離」が違う。アイスランドは親身な関係を持ちながらも一線置いている感じだが、ポルトガルの場合は、ともかく話していても物理的な距離が近い。写真も見せてもらいましたが、かなり「近くて」慣れないと大変だなと思いました。
2つ目は街中での「落書きの差」。アイスランドは少ないけれど、ポルトガルでは多いそうです。もちろん森田さんが滞在した歴史村には落書きはありませんが。落書きが多いと不安になる人もいるでしょうが、逆に安心する人もいるのかもしれない。
3つ目は「貧困(社会的保証)の差」。アイスランドは“機会平等”が重視されており、一定の生活水準を維持するための施策もあって経済格差をあまり感じないが、ポルトガルはそうではないようです。
そして4つ目は「男女平等の差」。アイスランドでは平等についての授業があるほどで、男女差は感じられないが、ポルトガルではDVも多く、殺人の3割がDV関連らしい。
5番目は「ゴミ捨て場がキレイかどうか」。アイスランドはキレイだが、ポルトガルは汚い。街で見かける割れた窓ガラスもアイスランドは少なくポルトガルは多かった。これが6つ目。
個人が尊重されているかどうかも、かなり違うようです。森田さんは子どもに関わるボランティア活動もしたそうですが、アイスランドでは子どもも尊重され、子どもに寄り添う育児を感じたのに対して、ポーランドでは親がマウントを取りたがり、育児も親の尊厳が強く、厳しいしつけが行われているそうです。
そして、昔ながらの「生活に必要な習慣」が今も続いているかどうかも両都市では違っていたようです。アイスランドでは、夏休みが6月〜8月まであり、長い冬支度のために子どもたちも家の手伝いをする。毎年9月になると羊の毛を刈る、屠殺するために都心に住んでいる人も集合して手伝う、というふうに、世界1インターネットが普及して発展してきている現代でも、みんなで協力している生活が続いていることが、治安の良さに繋がっているのではないか、と森田さんは言います。ポルトガルではそうした生活習慣は続いてないようです。
以上が森田さんが感じたことですが、アイスランドは犯罪が少ないのはわかりますが、ポルトガルはそうではないのではないかという気もしました。
でも森田さんの生活体験では、いずれのまちも、日本にいる時よりも安心して過ごすことができる気がしたというのです。
それは、困ったことがあっても、必ず誰かが助けてくれるという信頼感があったからだそうです。いわゆる「ソーシャル・キャピタル」が豊かだということでしょうが、どうも最近の日本では、若い世代はそういう信頼感を持ちにくい状況のようです。
しかし、森田さんも、ポルトガルを体験して、改めてアイスランドの治安の良さは格別だったと感じたそうです。
そこで次のようなことが気になりだし、これから調べていくそうです。
- 人口の多寡と人間関係の関係
- 平等意識は生来のものか教育によるものか
- 家族、近隣住民と助け合う精神はどこから生まれるのか
- 個人を尊重する精神はどこから生まれるのか
ちなみに、森田さんは暮らしで感じたことのほかに、現地在住の人への質問もしてきているそうで、そのいくつかを紹介してくれました。
これも面白い。一部を紹介します。
アイスランドでは、「みんなが知り合いだから何かあったらすぐばれる」「苛酷な環境に生きているから協力し合わないと生きていけない」。とても納得できますが、私としてはちょっとがっかり。
ポルトガルでは、「悪い奴らはお金のある国に行った」。これは実に示唆に富んでいる。また、たまたま区長に会う機会があったので質問したら、ポルトガルは治安がいいとは思っていないと言ったそうです。これも面白い。
ポルトガルといっても都市部と森田さんが滞在した歴史村とはかなり様相は違うのでしょう。そこにも、「犯罪のないまちづくり」のヒントがあるように思います。
話し合いもいろいろと話題が出ました。
日本は果たして「犯罪のないまち」という視点から見た場合、いい方向に向かっているのか悪い方向に向かっているのか。多くの人は悪い方向だというでしょう。
でもまだいろんなところに、「犯罪のないまち」を実現する要素はたくさん残っている。
たとえば、私は最近、外であった人にあいさつの声かけをするように努めていますが、返事が返ってくることは多いです。地方に行くと今でも向こうから声をかけてくるようなところもある。でも都会では、むやみに声をかけると嫌われる。「あいさつ」こそがすべての始まりと思っている私には、どうも違和感がある。
インターネットの普及も、どうもいまのところ「犯罪抑止」ではなく、闇バイトによる犯罪増加のように「犯罪助長」につながっている。
「犯罪のないまちづくり」への期待はますます大きくなりそうです。
森田さんは、ともかく10か国ほど回ってみようと考えています。並行して、日本でも何か実験的な試みもしてみたいと言っています。
デンマークから帰国したら、またその報告も兼ねて森田さんにサロンをお願いしたいと思います。私たちも、日ごろからきちんと考えていきたいものです。「犯罪のないまち」は誰かがつくってくれるものではなく、そこに暮らしているものたちみんなで育てていかないといけません。
ちなみに、森田さんは旅の記録をInstagramで公開しています。
森田さんの思いが伝わってきますので、ぜひご覧ください。
https://www.instagram.com/dandelion_thick_gray_cloud_and/
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