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2025/10/16

■湯島サロン「『伽藍とバザール』デジタル民主主義の源流」報告

『伽藍とバザール』のテキストを読んで、デジタル民主主義の話につなげていこうという竹形さん呼びかけのサロンの参加者は6人でした。たくさんの人に参加してほしかったのですが、『伽藍とバザール』の意味が届かなかったのかもしれません

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これからの組織や社会にとって、シンフォニーよりポリフォニーが大切だと盛んに言われ出したのは、1990年代に入ってからのような気がします。
私自身は、それ以前からそういう思いで活動してきましたが、1980年代までは組織のなかではもちろん、社会においても共感は得られませんでした。それが、私が会社を辞めることになった一因でもあるのですが。
しかし、最近ではデジタル技術の発展により、デジタル民主主義、つまりポリフォニーを実現するための環境が整いだしてきています。多様な思いが、時間を経ずに編集されシェアされるようになったのです。実際に、そうしたデジタル技術を使ってオードリー・タンさんは台湾で見事な成果を上げました。

案内でも書きましたが、「伽藍とバザール」は、ソフトウエア開発に関する2つのアプローチのスタイルを指しています。マイクロソフト社に代表される、設計図に基づいて管理された開発のやり方(伽藍方式)とリナックスの開発に代表される、みんなが知恵を出し合って自発的に作っていくというアプローチ(バザール方式)です。
しかし、この「伽藍とバザール」は、ソフトウエア開発にとどまる話ではありません。
組織(アソシエーション)のあり方はもちろんですが、社会(コミュニティ)のあり方にも通ずる話です。
竹形さんの問題意識もそこにあります。

今回は、まずはとっかかりとして、1998年に発表された、エリックス・レイモンドの『伽藍とバザール』と題する短い論考をみんなでしっかりと読もうというわけです。
竹形さんが用意してくれた『伽藍とバザール』のテキストに、サロンは展開されました。
竹形さんは、原本テキストのほかにも、それを読み解くために関連資料も用意してくれていました。
わかりやすい図(一部私が追加した図を添付)も。
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話し合いではいくつかのテーマが話題になりました。
たとえば、バザール方式が成功する条件です。
バザール方式を始めるためには、最初にまず「ある程度動くもの」が必要だとされています。言い換えれば、関わりたくなるような、そして関われるようなものです。たぶんここがポイントで、バザールの賑わいを引き起こすためには、弱みを持った魅力的な「祖形」のようなものが必要なのです。
それをどうやって作るのかという問題はありますが、そこは今回はあまり深入りしませんでした。

もう一つ大切なのは、マネジメントのスタイルです。この論考では「従来型の中央集権的なマネジメントや防衛的な姿勢は不向きで、むしろ柔軟で協力的な構造による対応が有効である」とされています。
言い換えれば、組織全体を一人がマネジメントするのではなく、関係者みんなが全体をよくするために他者ではなく自己をマネジメントすると言ってもいいでしょう。社会のマネジメントに関して言えば、「統治」ではなく「協治」という言葉が当てはまります。
さらに言い換えれば、関係者みんなが自立し共生するという関係を育てていくことです。
まさにこれこそが、民主主義の理念につながっているとも言えます。

フリーソフトとオープンソフトに関しても話題になりました。
ここで当然のことながら、仕事の金銭価値と本来価値が問題になります。ここは竹形さんの一番関心の強いところではないかと思うのですが、今回はその入り口の議論にとどまったと言っていいと思います。
ただ竹形さんは、ここでデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』の話を出しました。はっきりした議論にはなりませんでしたが、伽藍方式に比べてバザール方式ではブルシット・ジョブ(無意味な仕事)は生じにくいでしょうし、ましてや無意味な仕事への高価な報酬は生じにくいでしょう。
これは「経済のあり方」に深くつながっています。

竹形さんは、伽藍方式とバザール方式をわかりやすく図解してくれましたが、よく言われる「ピラミッド組織」と「ネットワーク組織」で表現してくれました。
添付した図の左側の2つの図です。
これには私は異論があって、ネットワーク組織ではなく、リゾ-ミック組織のほうがバザール方式を表現しているように思います。
リゾームとは植物の地下茎のことで、お互いに絡み合いながら伸びていく組織です。ネットワーク組織との違いは、外部に開かれていて、内外の境界がないことです。したがって他のリゾ-ミック組織とも絡み合っていくわけです。
湯島でも農業関係のサロンで時々話題になる菌根菌ネットワークは、まさにリゾーミック構造のことを言っています。
蛇足ですが、私は人間同士はもちろん、あらゆる生物も、ある意味で無生物さえもが、リゾーミックにつながっていると思っているのです。
竹形さんは、このリゾーミックスタイルもネットワークに含ませているようなので、ここはあまり議論にはなりませんでした。いつかここはしっかりと議論したいところです。

他にも様々な論点が出され話し合が行われましたが、とりあえず終わります。
これからいよいよデジタル民主主義の話へと進んでいくと思いますが時々、その原点でもある、この論考には戻ることがあるでしょう。
ちなみに、『伽藍とバザール』はネットで公開されているので、誰も無料で読めます。まさにバザール方式の基本でもあるオープンソースになっているのです。
次の青空文庫のリンクからフリーでダウンロードできます。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000029/card227.html
短い論考ですので、まだお読みでない方はぜひお読みください。

なお、『伽藍とバザール』、それにオードリー・タンさんの『プルラリティ 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』の2冊は、竹形さんの提供で、CWSライブラリーに収められました。お読みになりたい方は貸出可能ですのでお申し出ください。
デジタル民主主義をテーマにしたサロンは年明け後を予定しています。

 

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