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2025/10/18

■第8回中国現代文学サロン『埋葬』報告

第8回中国現代文学サロンでは、残雪の『埋葬』(近藤直子訳)をとりあげました。
残雪は長年、ノーベル文学賞の有力な候補で、今年は最有力候補でした。しかし残雪は中国のカフカと言われるほど、その作品は難解で、中国国内でもそうポピュラーではなく、葉紅さんはいつか取り上げなければと思いながらも、8回目にしてようやくとり上げたそうです。
しかし、葉さんはもしかしたら、今年こそ受賞かという思いで、このタイミングで取り上げたのかもしれません。残念ながら昨年に続いてのアジアからの受賞は難しかったようで、今年度の受賞は見送られましたが、日本でも話題になりだしてきたように思います。実にいいタイミングでした。

葉紅さんは、今回、その難解と言われる残雪の作品を読み解くために、わざわざいろいろと調べてくださったようです。ほかの作品も持ってきてくれました。その中には、残雪のカフカ評論集もありました。また詳細な残雪の年譜も配布してくれました。

最初に葉紅さんは、著者残雪の紹介をいつも以上にていねいにしてくれました。
残雪(本名は鄧小華)は1985年から短編小説を発表し始めた多作の作家です。その作品は当初から海外で翻訳出版され、欧米諸国でも熱心な読者が沢山いるそうです。どうも国内より、海外での人気が高いようです。
日本にも出版直後から、今回の作品の訳者である近藤直子さんによって紹介され、残雪研究会もできています。その機関誌も葉さんは持ってきてくれました。

残雪の作品はかなり日本でも翻訳紹介されているそうですが、今回、葉さんはまだ日本語翻訳されていない3篇の作品を簡単に紹介してくれました。『家庭秘密』『涌動』『自由訓練場』。いずれも不思議な物語です。筋書きをお聞きしたところ、中国のカフカと言われるのも納得できます。とても興味を持ちました。

3篇の紹介の後、葉さんは残雪の作品の特徴について解説してくれました。
残雪の作品は、どの題材を取り上げて描いても基本的に謎のままで終わるのだそうです。どうしてそうなのかを最後まで明かさないので、読者は一様に「これってどんな文学なんだ?」と最初に口にする、と葉さんは話してくれました。

残雪は自ら自分の作品を「新実験小説」と位置づけているそうです。奔放な想像力で読者を迷宮にいざない、読者のほとんどは、「難解、意味不明、何を表現しようとしているのかつかめない」という感想を持つ人が多いようですが、今回の参加者のほとんどの人も同じような感想を持ったようです。

しかし、残雪の作品には読者を引きつけて離さない不思議な磁場があるといいます。残雪は、海外メディアの取材を受けた時に「読者と〈共同の探索者〉としての関係を築きたい」と答えたそうです。まさにカフカです。

葉さんは、読み手の力量が問われているのだ、と言います。そして、「それでも分からないものは分からない。仕方がないから何度も読むしかありません」と。
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しかし最後に、葉さんはとても大きな示唆を与えてくれました。
今回の作品『埋葬』の中国語タイトルは『掩埋(えんまい)』です。
葉さんは、その『掩埋』について解説してくれました。
「掩」は「おおう、おおいかくす」、「埋」は「うめる」という意味で、「掩埋」には「いける、世に知られなくなる、いけにえを埋めて山林をまつる」「生ける 命を保たせる.生き返らせる」というような意味もあるそうです。
残雪はなぜ、『埋葬』ではなく『掩埋』を題名にしたのか。
葉さんは、この題名に込められた意味を、「隠して生き返らせる」「再生のための埋蔵」、さらには「家の中のお気に入りのものを山中に埋めることで、自らの命の再生を願った」と取ることができないだろうかと参加者に投げかけました。
「掩埋」は、ただの埋める、埋葬ではなく、生ける、生き返らせる、いけにえにするという意味合いを込めたタイトルなのではないか、というわけです。そのように読むと、作中の内容、人物の動きがしっくりくると、葉さんは言います。

ちなみに、ある人が「日本では貯蔵用の野菜を土に埋めることを「いけておく」と言った」と話してくれました。確かに私にも記憶があります。
「埋める」と「生きる」。とても興味ある話です。
日本語の題名は『埋葬』ですが、もし葉さんのように受け止めれば、意味は全く逆になります。物語の解釈も大きく変わってきます。

最後に葉さんはいつものように話し合いのための論点を3つ問いかけてくれました。
そこから話し合いに入ったのですが、作品を読んでいない人には意味がないので報告は省略します。

ただ参加者それぞれの解釈はとても示唆に富んでいました。
残雪の小説は読者を「途方に暮れさせる」と言われているようですが、まさに私も途方に暮れた一人です。しかし、みなさんの解釈や読み取り方を聞いて、少し展望が開けた気がします。でもまだカフカとはつながりませんが。

最後の最後に、葉さんは、訳者の近藤さんの読み方も紹介してくれましたが、作品を読んでいない人には意味がないのでこれも省略します。
でも残雪の作品への関心は高まり、私でさえ、読みたくなってきました。

次回(2026年2月8日予定)もまた、残雪の作品『よそ者』を取り上げます。
いつものように、作品は『中国現代文学』11号に収載されています。
同誌ご希望の方は葉さんに購入してもらいますので、今月中に私までご連絡ください。

ちなみに、残雪さんの短編集と批評集『魂の城 カフカ解読』の2冊を葉さんから年内、CWSライブラリに提供してもらいました。お読みになりたい方はご連絡ください。

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