柏市で農に携わっている杉野光明さんは、私の考える「農的な生き方」をしている人です。年に1~2回しかお伺いできないのですが、私にとってはあこがれの暮らしです。
その杉野さんが最近、農本主義を改めて考えてみたいと言われたのが、この夏です。私も同じようなことを思っていたので、改めて私も数冊の本を読みました。
「農本主義」と言っても、その意味合いはいろいろあって、例えば、かつての日本の国家構想の一つとしての「農本主義」もありますし、農の生き方こそ人間本来の生き方と主張する生き方論としての「農本主義」もあります。
「農業」のますますの「工業化」の動きがある一方で、いささか先が見えにくくなっている工業社会を切り開いていくための一つのヒントが「農」にあるという見方も広まっています。
そこで、国家構想としての農本主義ではなく、むしろ私たちの生き方における農本主義につながるサロンを始めることにし、その皮切りに、杉野さんに、ご自身の生き方を紹介してもらいながら、「農本主義」入門のサロンを開いてもらいました。
杉野さんは、参考書籍として、宇根豊さんの『農本主義のすすめ』(ちくま新書)を指定してきました。原則、同書を読んでの参加をお願いしました。
杉野さんは、まずご自身のファミリーヒストリー的に、3代前までの「農への取り組み」を話してくれました。そこには時代の変化や農政の変化が読み取れます。
昭和初期の農村や農家の生活、自然災害に襲われることも含めての自然との関係、さらには土地改善・事業構造改善事業による農業の近代化と金銭経済化の動きなど、生々しい写真なども使いながら解説してくれました。
そうした時代の流れのなかで、杉野家も農への取り組みを変えてきたわけです。
みんなで米を作る「納得米プロジェクト」、時代の要請に合わせての農産加工品への取り組みなど、杉野さんは、「農的な生き方」を守りながら、時代の変化に対応してさまざまな活動にも取り組んできたようです。
しかし2010年ころから、状況は大きく変わりだします。近隣の農家が人手不足から農業から抜け出し、耕作放棄地が増加し始めたのです。そしてその農地の活用などの相談を受けるようになってきます。
さらに、耕作放棄地や谷津田などを利用する土建業の農業法人参入の動きもある。
そうした動きは、地域社会(ムラ)の崩壊へとつながっていく。
杉野さんは、「なんだかなあ、と気が滅入る」と言います。
土地は要らないとか、家屋敷を外資に売却したとか、集落隣接地にソーラーパネルをとか、そんな噂が飛び交う今の状況に、この地を築いてきた先代や先人たちはなんと思うだろうか。「今だけオレだけお金だけ」の風潮が世界中を席巻している時代だから仕方ないのだろうか。
そこから杉野さんの思いはいろいろと広がります。
そういえば、マオリの先祖であると考えられてきた聖地、ワンガヌイ川(ニュージーランド)には法的人格が授与された。
そういえば アイヌの「カムイ」。人間以外の人間を取り巻く動植物、火、水、家、舟などすべてのものに魂があり、何らかの精神、意志を持っていると言われる。
私たちは、「人間が土地を所有している」と思っているが、ほんとうにそうなのか。一人の人間からみれば居場所として土地を間借りしているだけなのではないのか。
人間も自然の一部、環境の一部、お天道様の下ではみな平等ではないのか。
ならば、その土地のあるべき姿をそのまま次世代につなげねばならない。
こうして杉野さんは、土地本位の考え方、『地本主義』『大地主義』に行き着きます。
それは、「農本主義」にもつながっていく。
そこから、宇根さんの『農本主義のすすめ』の要旨を紹介するとともに、実際に農本主義に生きている「現代の農本主義者」3人を紹介してくれました。
茨城県竜ヶ崎市の横田農場で地域の農業を持続させる活動に取り組んでいる横田修一さん。生き物みんなが食べられる植物を育てる柏市ファーム小川の小川幸夫さん。そして、農を市場原理から解放した埼玉県小川町霜里農場の金子美登さん。
そうした活動(生き方)のなかに、杉野さんは柄谷行人の「交換様式から見た社会システム理論」に言う「交換様式D」を読み取るのです。そしてそこに、「農本主義の目指した社会」をイメージしているようです。
杉野さんも話してくれたように、農や農業を取り巻く状況は厳しい状況にあります。しかし、現場から現場を見ている杉野さんは、こう言います。
荒廃した農村部に都市から人が入ってきて農業をするという現象が各地に見られる。その場合、それは、従来の村落共同体に戻ることにはならない。もとからいる人が、外から入ってきた人と一緒に、新しい農業をやるような体制ができつつある。そこから新しい共同体が生まれる。
それこそ、農本主義の目指した社会なのではないか。
私も実際にそういう気配を感じていました。
「農的な生き方」をしている杉野さんの言葉には、少し安堵できます。
以上、かなり省略してまとめてしまいました。
肝心の「農本主義」に関しても、杉野さんはきちんと説明してくれたのですが、それはテキストの宇根さんの『農本主義のすすめ』をぜひ読んでください。
CWSライブラリーとしても蔵書されていますので、貸出可能です。
話し合いもいろいろと広がり、異論をぶつけ合う場面もあったのですが、長くなったので省略させてもらいます。「所有」と「総有」、食の自給など、議論を深めたい話題もいろいろ出ました。
いずれにしろ一度のサロンで終わるようなテーマではありません。引き続き、いろんな角度からの「農」サロンを企画していきたいです。
今回は、農本主義サロンのイントロだったので、杉野さんには過大な内容の話をお願いしてしまいました。杉野さんも話しきれなかったでしょう。できればまたいつか、杉野さんの実際の「農的な生き方」の話もお聞きしたいと思っています。

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