■湯島サロン「自治を希求する人々が創るつながりの経済~スペインにおける社会的連帯経済の事例視察報告」報告(2026年7月3日開催)
■湯島サロン「自治を希求する人々が創るつながりの経済~スペインにおける社会的連帯経済の事例視察報告」報告(2026年7月3日開催)
「社会的連帯経済」という言葉をご存じでしょうか。
資本主義にかわる「もうひとつの経済」のひとつとして、ラテン系の世界を中心に拡がっている経済です。湯島のサロンでも、「もうひとつの経済」が話題になることは多いのですが、最近は正面から取り上げたことはありませんでした。
今年5月に、守本香さん(生活クラブ生協東京組合員理事)が社会的連帯経済が広がりを見せている国の一つ、スペインに事例視察に行ってきました。それで早速にサロンをお願いしました。
多くの人に参加していただき、改めて「もうひとつの経済」を話し合う入り口にしたかったのですが、平日だったせいか、参加者が少なかったのがとても残念です。いつかもう一度、守本さんには話をしてほしいと思うほどですが、いずれにしろ今年は何回か、このテーマを取り上げていく予定です。
守本さんは、まず今回の視察先を紹介するとともに、背景としてのスペインの歴史的な変遷を最初にさらっと解説してくれました。
スペインは、強力な地方政府(自治州)から成る分権的な国家ですが、かつてはバスク地方のモンドラゴン協同組合が有名でした。今回はカタルーニャ、アラゴン、それにマドリードの3つの州で展開されている協同組合や時間銀行など16か所を訪問してきたそうです。この3つの州は、2011年の市民運動15Mから生まれた市民政党が一時期、知事職を担い、社会的連帯経済を積極的に進めてきた州です。
つづいて、いよいよ視察先の紹介です。
守本さんは、「社会的連帯経済とは何か」という話はせずに、「住まい・仕事・ケア・食といった暮らしの課題を市民が協同で解決するスペインの実践事例」をそのまま紹介してくれました。そこから参加者に「社会的連帯経済とは何か」を実感してほしいと考えているようです。現場視察報告として最高のスタイルです。
ただ視察事例をそのまま羅列したのではありません。そこから浮かび上がってきた社会的連帯経済の特徴を5つのテーマに分けて紹介してくれました。とてもわかりやすいので、それぞれの代表事例と併せて、そのまま紹介させてもらいます。
① 市民参加での地域コミュニティづくり
たとえば、組合員が運営する参加型のスーパーマーケット ‟La Osa”。
② コーハウジング
高齢者が自ら運営する集合住宅 ‟Trabensol”。
③ 社会的包摂の取組み
障害・精神疾患・移民・貧困など排除されがちな人に、働くことで社会とつながる場を作り出す生産者協同組合や社会的企業。
④ ネットワークと社会的連帯経済の基盤づくり
個々の実践を支え、つなぎ、広げていくための実践活動のネットワークや研究所。
⑤ 社会課題解決への取組み
暮らしの困りごとを市場に任せず、自分たちで解決するための「助け合いの仕組み」として、時間銀行やフードバンク、医療生協。
個々の事例から見えてくるのは、金銭や収益や成長を軸にした経済ではなく、つながりや支え合いや安心を軸にした経済です。新自由主義方資本主義に慣れきってしまった人にはなかなか理解できない「経済のかたち」です。
例えば、参加型スーパーマーケット‟La Osa”での「働き方」は、生活中心の働き方ですから、コスパやタイパとは無縁です。高齢者自らが運営する集合住宅‟Trabensol”は、単なる「住まい」ではなく、みんなで「暮らし」そのものを一緒に創り出しています。いずれの事例も、主役は市民(生活者)。みんな主体性を持って、生き生きと働き暮らしている。経済の主役は「金銭」ではなく「人間と社会」。まさに「経世済民」の経済が感じられます。
金銭と言えば、時間銀行にもいくつか訪問しています。時間は地域通貨と並んで補完通貨としてもうひとつの経済の基軸の一つになっていますが、資本主義的なタイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)発想とは全く違った位置づけがされています。そこで交換される時間は数量ではなく、むしろお互いに時間を分かち合い、持ちつ持たれつの関係を築くことに意味が置かれています。交換というよりも、共有に意味がある。
というように、守本さんの報告事例に通底しているのは、新自由主義のグローバル化がもたらす格差の拡大や個人主義によって分断された社会に「つながり」で抗っていこうという姿勢です。
最後に守本さんは、今回の視察から得たヒントと感想を話してくれました。
項目だけを並べれば、「市民が〈担い手〉になる」「住まい・仕事・ケアに協同で取り組む」「排除されがちな人に尊厳ある仕事と居場所を用意する」「中間支援が実践を面に広げる」「助け合いを仕組みにする」といったことが大切だと言います。そして、今回の視察を通して、日本でも市民が主役の社会はつくれる。協同と助け合いの積み重ねが力になると信じています、と締めくくりました。
そこから話し合いです。
参加者の多くは、「社会的連帯経済」という言葉は今回初めて知ったそうですが、同じような実践をしている人は少なくありません。
たとえば、今回広島から参加してくれた佐原さんは、発達障害の子どもたちのための仕事場を、仲間と一緒につくりあげてきました。ほかにもたくさんの事例があるでしょう。しかしスペインと違うのは、そうした個々の実践がつながっていないことかもしれません。点が面にならないので、実践が蓄積されていきにくい。
ちなみに、私にはこういう話は既視感があります。
1980年代から90年代にかけて、日本でもコーハウジングや時間通貨、あるいは市民共同発電など、支え合いを基本にした経済が広がっていた時期もありました。それが21世紀に入ってから、見事に見えなくなってしまった。
その背景には、私たち市民の意識や生き方、そして取り組み方の違いがあるような気がします。
スペインでは、まさに市民が主役であるとともに、政治に対しても働きかけをしているのです。つまり、日本では政治と経済がお金を軸につながっていますが、スペインでは生活を軸につながっている。今回の事例も、いい意味で、政治が市民の実践を応援し、市民もまた政治や行政に共創的な関心を持っています。
もっともこれに関しては、別の動きもあるので、それはおいおいサロンで取り上げていこうと思います。
話し合いでは、たまたま杉並区長選挙直後だったこともあり、ミュニシパリズム(住民自治による地域主権主義)の話も出ました。日本も少しずつ変わっていく可能性はあります。しかし、そのためにも、ヨーロッパや南米で拡がっている社会的連帯経済など、「もう一つの経済」についての実践から学んでいく必要があるでしょう。
今回の視察のガイドはジャーナリストの工藤律子さんにお願いしたそうですが、守本さんは最後に工藤さんの書籍をいくつか紹介してくださいました。ここではその中から、一番読みやすいと思われる1冊を紹介しておきます。今回紹介のあった事例もたくさん出てきます。ぜひお読みください。工藤さんは他にも何冊か出版しています。
『つながりの経済を創る』(工藤律子著 岩波書店 2020年)
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784000014120
ちなみに、湯島では7月19日(日曜日)に、協同総合研究所の田嶋さんに「『共に働く』協同労働とケア-ワーカーズコープの実践」をテーマにサロンをお願いしています。また日程は決まっていませんが、山本眞人さんの新著『生産と消費からケアと自由への転換』の紹介も兼ねたサロンを予定しています。
いずれにしろ、「もう一つの経済」という切り口のサロンを少し続ける予定です。
どなたか話してもいいという方がいたらご連絡ください。
| 固定リンク
「サロン報告」カテゴリの記事
- ■8月オープンサロン報告(2026年8月14日開催)(2026.08.15)
- ■新倉食養サロン「秋の食養生」報告(2026年8月11日開催)(2026.08.13)
- ■湯島サロン「日本の個性と可能性~日本社会を変えるために「日本」について理解しよう」報告(2026年8月9日開催)(2026.08.11)
- ■湯島サロン「からだのバランスを整えてみませんか」報告(2026年8月8日開催)(2026.08.10)
- ■第21回あすあびサロン報告(2026.08.08)


コメント